No. 192010. 05. 30
成人 > その他

Pneumocystis jirovecii pneumonia(PCP)の診断と治療(3/3)

神戸大学医学部附属病院 感染症内科

  内田大介、岡秀昭

(3分割配信の3回目です 1回目 2回目

  前回まで、PCPの経過、診断を中心に取り上げてきましたが、今回はPCPの治療と予防について考えたいと思います。

治 療

選択薬

 治療としては、ST(trimethoprim-sulfamethoxazole)合剤が第1選択として用いられます[9]。その他にも選択薬は多数ありますが、治療データが豊富で、臨床効果、副作用や薬価の点を考慮すると、総合的に他剤より有利であり、優れている薬剤であると考えられます。

 HIV患者に対するPCPの治療では、軽症から中等症に対し、clindamycin+primaquine、atovaquoneが厚生労働省エイズ治療薬研究班からのオーファンドラッグとして使用ができます。ただし共にST合剤と比較して効果は低いため、重症例には使用は勧められません。

 中等症から重症では、ST合剤の他にも、同等の治療効果が示されているpentamidineの静注治療がありますが、腎機能障害や耐糖能障害(特に低血糖)、血圧低下、幻覚、悪心、味覚異常、血球減少、膵炎、肝炎などの薬剤副作用が多数あることに注意が必要です。特に膵臓のランゲルハンス島の壊死により治療数か月後にも低血糖をきたすこともあります。pentamidineはHIV、非HIV患者共にわが国でも使用が可能です。

治療期間

 HIV患者では21日間が標準的な治療期間ですが、非HIV患者においては、臨床試験による根拠が乏しいものの、より短めの14日間の治療期間が推奨されています。HIV患者のほうが、病原体の量が多いこと、治療への反応に時間を要することが、この違いの理由とされています。また、ST合剤は非HIV患者では忍容性が高いですが、HIV患者では過半数に発疹など継続困難な副作用が伴うことが知られ、他剤への変更が必要なことが多いです。

Corticosteroidを併用

 軽症ならば、経口ST合剤での治療で問題ありません。中等症から重症ではST合剤の点滴投与を行うことが一般的です。HIV患者のPCPにおいて、PaO2<70mmHgの重症例では、ステロイドを併用することが推奨されています。通常の経過でも、治療開始後3日程度は呼吸状態の悪化をきたしますが、抗菌薬にステロイドを併用することで、治療開始後の酸素化低下の抑制、呼吸不全の軽減、死亡率の軽減が期待できます。可能であれば迅速な併用が望ましく、72時間以降の併用に関しての効果は不明です。また、他の日和見感染症を惹起する危険性が懸念されていましたが、一般に安全であることが証明されています[10]。

 ステロイドの併用はHIV患者の重症PCPにおいて効果が証明されている治療法ですが、非HIV患者では、prednisoneの併用についての臨床試験は乏しく、賛否が分かれています[11][12]。しかしながら現実の臨床現場においては、HIV患者と同様の投与スケジュールで投与されることが多いようです。

予防されたなかでのPCP

 ST合剤などでPCPの予防をされていてもPCPはまれですが起こりえます[13]。その際に、治療をST合剤により開始してよいのかという疑問が生じますが、実際にはST合剤をPCP治療の適量で開始してよいとされています[14]。ST合剤への耐性化の報告はありますが、耐性結果が臨床的なアウトカムに悪影響を及ぼすかはよく分かっていないためです。

治療経過

 非HIV患者に対し、HIV患者では改善が遅れる傾向にあり、一般的に治療効果が表れるのは治療開始後5日目前後とされています。したがって、治療開始後4日間前後は臨床的に悪化することもあるので、ここであわてて治療薬を変更したり、追加する必要はありません。しかしながら、治療開始5-7日後に治療に不応であった場合には、pentamidineなどへの変更もしくは併用投与を検討してもよいと考えます。その場合には、ST合剤、pentamidine、HIV患者ではついでClindamycin+primaquineの順番で薬剤変更していくことが多いようです。もちろん診断が間違っている、他の感染症がある、肺外病変の有無などの鑑別診断を考慮する必要もあります。

予 防

 ST合剤での予防効果は、罹患率を低下させるだけではなく、PCPに罹患した場合の死亡率を低下させる効果があります。また、年間470万ドルの費用節減に寄与したといった報告もあります[15]。

 ST合剤の投与で、HIV患者に発症するPCPの8割を予防できるという報告があります[16]。また、非HIV患者では発症の9割を予防することができ、Number needed to treat (NNT)は15という報告があります[17]。

HIV患者

 CD4 200/mcl以下や口腔内カンジダがある場合、PCP罹患歴がある場合には予防内服を開始します。HAARTによりCD4 200/mcl以上の状態が12週間以上経過した場合は予防内服を中止することもできますが、CD4 200/mcl以上でPCPを発症した場合には生涯内服が推奨されています。

非HIV患者

 ステロイド投与患者では、投与量、投与期間、他の免疫抑制剤併用の有無などを総合的に考慮します。目安としては、プレドニゾロンで1日20mgを1か月以上投与されるようであれば、予防を行なうことが推奨されています。血液をはじめとした悪性腫瘍、移植患者、原発性免疫不全症、重度の栄養失調、免疫抑制治療を行なう悪性疾患、自己免疫疾患なども予防投与の対象になりますが、明確な決まりはありません。喘息患者では通常は不要とされています。予防する期間は、免疫抑制が改善するまでとされています。

選択薬

 ST合剤、dapsone、pentamidine吸入、HIV患者では加えて、atovaquoneといった選択肢があります。ST合剤が最も効果が高く、予防においても第1選択薬です。

 ST合剤は、米国ではsingle-strength(SS)錠の2倍量となるdouble strength(DS)錠がありますが、日本で使用しているのはSS錠です。予防の投与用法・用量は、SS錠換算でST合剤2錠の連日投与と隔日投与の効果は同等で[18]、1錠の連日投与のほうが、2錠連日投与よりも忍容性が高いとされているため、SS錠1錠連日あるいは2錠隔日投与がお勧めです[19]。ST合剤の副作用は、皮疹や肝機能障害、好中球減少、発熱などが挙げられますが、脱感作が可能で、サルファアレルギーがあっても投与量の調節で継続が可能とされます。ST合剤はPneumocystisだけではなく、Toxoplasmaや、IsosporaSalmonellaListeriaNocardiaLegionellaHaemophilus influenzaeStreptococcus pneumoniaeStaphylococcus aureus、多くのグラム陰性桿菌などへの予防効果も期待できる利点があります。HIV患者ではToxoplasmaのIgG抗体が陽性であれば、その予防も含めてST合剤が選択されます。もしST合剤予防中にPCPを発症した場合には、その治療にはST合剤以外の薬剤が選択されることが多いです。

 月1回のpentamidine吸入による予防は忍容性の点からは優れていますが、特にCD4低値症例においてST合剤より予防効果が劣ってしまうこと、Toxoplasmaの予防はできないこと、肺外病変を合併する可能性があること、吸入にあたり陰圧部屋が必要になる点が問題点として挙げられ、薬価も8300円とST合剤の100円前後と比較すると高価であることからも、積極的な使用はお勧めできません。特に結核が疑われる患者には行なわないこと、pentamidine吸入をPCPの治療には使用してはいけないことは知っておく必要があります。

 atovaquoneは、食事と同時に摂取することで吸収がよりよくなるため、食事と同時に服用します。PCPの治療量と予防投与量が等量であることは便利です。認容性は比較的良好ですが、高価な点と(45ドル前後)、HIV患者に対するオーファンドラッグであることが一般的な使用を制限します。

まとめ

  • HIV、非HIV患者ともにPCPの治療の第1選択薬は、重症度によらず、ST合剤である。
  • pentamidine静注治療もST合剤と同等の効果を期待できるが、副作用が多いことに注意が必要である。
  • HIV患者のPaO2<70mmHgの重症PCPにおける治療では、ステロイド併用が望ましい。
  • 治療期間は、HIV患者では21日間、非HIV患者は14日間が目安である。
  • HIV患者の多くは、ST合剤で何らかの副作用を伴う場合が多いが、非HIV患者では比較的認容性はよい。
  • CD4<200/mclや口腔内カンジダ、PCP罹患歴があるHIV患者では、PCPに対する1次予防が必要である。
  • プレドニゾロンで1日20mgを1か月以上の投与を目安として、免疫抑制患者はPCPに対する1次予防を考慮する。
  • ST合剤1錠連日、あるいは2錠隔日投与が好ましい予防法である。

<References>
7. Kovacs JA, Masur H. Evolving health effects of Pneumocystis: one hundred years of progress in diagnosis and treatment. JAMA. 2009;301:2578-85.
8. Gallant, JE, Chaisson, RE, Moore, RD. The effect of adjunctive corticosteroids for the treatment of Pneumocytis carinii pneumonia on mortality and subsequent complications. Chest 1998; 114:1258.
9. Pareja, JG, Garland, R, Koziel, H. Use of adjunctive corticosteroids in severe adult non-HIV Pneumocystis carinii pneumonia. Chest 1998; 113:1215.
10. Delclaux, C, Zahar, JR, Amraoui, G, et al. Corticosteroids as adjunctive therapy for severe Pneumocystis carinii pneumonia in non-human immunodeficiency virus-infected patients: retrospective study of 31 patients. Clin Infect Dis 1999; 29:670.
11. Mikaelsson L, Jacobsson G, Andersson R. Pneumocystis pneumonia–a retrospective study 1991-2001 in Gothenburg, Sweden. Journal of Infection 2006;53, 260-265.
12. Safrin, S, Finkelstein, DM, Feinberg, J, et al. Comparison of three regimens for treatment of mild to moderate Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. A double-blind, randomized trial of oral trimethoprim-sulfamethoxazole, dapsone-trimethoprim, and clindamycin-primaquine. Ann Intern Med 1996; 124:792.
13. Gallant, JE, McAvinue, SM, Moore, RD, et al. The impact of prophylaxis on outcome and resource utilization in Pneumocystis carinii pneumonia. Chest 1995; 107:1018.
14. Schneider, MM, Nielsen, TL, Nelsing, S, et al. Efficacy and toxicity of two doses of trimethoprim-sulfamethoxazole as primary prophylaxis against Pneumocystis carinii pneumonia in patients with human immunodeficiency virus. Dutch AIDS Treatment Group. J Infect Dis 1995; 171:1632.
15. Green H, Paul M, Vidal L, Leibovici L. Prophylaxis of Pneumocystis pneumonia in immunocompromised non-HIV-infected patients: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Mayo Clin Proc. 2007 Sep;82(9):1052-9.
16. Stansell, JD, Osmond, DH, Charlebois, E, et al. Predictors of pneumocystis carinii pneumonia in HIV-infected persons. Am J Respir Crit Care Med 1997; 155:60.
17. El-Sadr, WM, Luskin-Hawk, R, Yurik, TM, et al. A randomized trial of daily and thrice-weekly trimethoprim-sulfamethoxazole for the prevention of Pneumocystis carinii pneumonia in human immunodeficiency virus-infected persons. Clin Infect Dis 1999; 29:775.

(了)

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