No. 182010. 04. 28
成人 > ケーススタディ

発熱を主訴に来院した40代女性(2/3)

東海大学医学部付属病院総合内科

上田晃弘

(3分割配信の2回目です 1回目
※本症例は実際にあった症例を元に、個人情報などに配慮しつつ、 再構成したものです。


 前回の情報をまとめると、「数年前に外傷歴のある40代女性で、急性発症の悪寒を伴う発熱を認める。そのほかに自覚症状はない。身体所見では軽度の咽頭発赤を認めるのみ」ということである。

 時期的には昨年の秋頃でインフルエンザが流行っている時期であり、上気道症状は乏しいが否定はできない。暴露歴はしっかり確認しておきたい。また、インフルエンザが重症化した場合のリスクについても確認をしておきたい。

 咽頭発赤が見られており、咽頭炎をきたしうる疾患を考える。A群溶血性連鎖球菌(GAS)による咽頭炎、淋菌、クラジミアによる咽頭炎、EBV、CMV、HIVも鑑別には入れておく。

 咽頭炎は鑑別に入るが、上気道症状には乏しく、軽度の咽頭発赤は非特異的な所見かもしれない。システムレビュー、身体診察では問題となっている臓器ははっきりしないが、咽頭炎以外の可能性も考えておく必要がある。

 温泉旅行に行ったとのことだが、詳細を確認しておきたい。特に、フォーカスのはっきりしない発熱であり、リケッチア症のリスクになるような野外での活動、虫刺の有無についても聞いておきたい。また、皮疹の有無をもう一度確認しておこう。
温泉旅行といわれると、レジオネラ感染症を考えたくなる。呼吸状態はどうだろうか。

 悪寒を伴う発熱であり、フォーカスが明らかではない敗血症や感染性心内膜炎などの血流感染も鑑別に入れておく必要はあるだろう。

 上気道症状は乏しいが、暫定的に上気道炎として経過を見てもよいだろうか。
どうも問題となっている臓器がはっきりせず、気持ちが悪い。

 一度、原則に立ち返り、患者背景を見直してみよう。現在治療中の疾患はないとのことだが、以前の通院歴や治療歴はどうだろうか。また、外傷の具体的な内容についても確認をしておきたい。

追加した病歴

旅行歴:受診4日前の旅行先は北関東にある有名な温泉で、旅館に滞在。食事には刺身も出てきたが特におかしな味などはしなかった。一緒に旅行をした友人はみな元気そうだった。野外での活動はなく、虫刺されもなし。

既往歴:4年前、交通事故による腹部外傷に伴い、脾臓を摘出していたとのことであった。予防接種なし。そのほかに通院歴、治療歴はない。

Sick contact:なし。周りにインフルエンザに罹患している人はいなかった。
海外渡航歴:なし。

性交渉歴:結婚後、現在の夫以外との性交渉歴なし。

社会歴:ペット無し。

 血算(白血球分画を含む)、基本的な生化学検査、インフルエンザ迅速抗原検査、尿定性検査、胸部レントゲン写真、血液培養(2セット)を行った。

血液検査:WBC 10400 /μl (Seg 75.5%、Stab 16.0%、Lymph 0.5%、Mono 0%、Eosino 0%、 Baso 0.5%、Atypic 0%、Meta 3.5%、Myelo 4.0%、Howell-Jolly bodyを認める)、RBC 428万 /μl、Hb 13.9、Hct 40.6、MCV 94.2、Plt 9.9万 /μl、AST 143、 ALT 92、 Cr 0.63、 BUN 10、Glucose 102、Na 139、K 3.0、Cl 107、Bil 1.0、CRP 3.45

尿検査:尿蛋白1+、尿糖-、比重1.013、pH5.0、ウロビリノーゲン0.1、ケトン-、白血球2+、亜硝酸-、潜血1+

胸部単純レントゲン写真:特記すべき異常所見を認めず。

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さて、ここまでの情報を踏まえて、さらなる検査、治療など、
どのように対処しますか。

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(つづく)

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