No. 142009. 11. 16
成人 > その他

AASLD 慢性B型肝炎ガイドライン(2/3)

神戸大学 都市安全研究センター 医療リスクマネジメント分野/ 神戸大学大学院 医学系研究科 微生物感染症学講座 感染治療学分野

大路 剛

(3分割配信の2回目です  1回目
今回はスクリーニングでHBVと診断された症例に対する推奨内容です。

スクリーニングでHBV感染が判明した患者

 HBV感染が判明した場合は、まずは患者への生活指導が必要になります。具体的には、体液がついた歯ブラシやひげ剃りなどの物品を他人と共有してはいけないことを要点として指導します(表3)。AASLDガイドラインではHBVキャリアの小児、幼児の保育園入園を禁じていませんが、日本では保育園内感染の報告もあり悩ましいところです[1]。

表3 HBV感染者が他者への感染させないために
(AASLDガイドラインより改変)

<HBsAg陽性の人>

・性交渉はワクチン接種者と

・もし性交渉する相手がワクチン接種していなければコンドームを使用

・歯ブラシを共有してはだめ

・開放創やひっかき傷は露出しないように(血液を広げないように)

・血が飛び散れば石けんと漂白剤で洗う

・献血、臓器提供、精子の提供はだめ

<HBsAg陽性の子どもと親>

・コンタクトスポーツを含むすべての運動に参加可能(注:アメリカではHBVワクチンがすべての子どもに推奨されている前提があります)

・保育施設や小学校への入学は禁止されるべきでない。他の子どもと隔離されるべきでない(※アメリカではHBVワクチンがすべての子どもに推奨されている前提があります)

・食事、食器は共有でき、キスしても大丈夫(※あくまでAASLDのスタンスです)

 妊婦は出産時にHBIGの予防投与とHBVワクチン投与を行いますが、HBV DNA量が高値(>8 log10IU/mL)の出産例では垂直感染予防が困難です。

 特定の職業、特に医療従事者については、患者への感染が問題となります。CDC(Centers for Disease Control and Prevention)ガイドラインでは、HBeAg陽性の医療従事者が侵襲的な医療手技に携わる場合はカウンセリングを受けるべきだとされています。しかし、HBeAg陰性でもHBV DNA高値のキャリア症例は存在します。実際にAASLDも指摘していますが、ヨーロッパではHBV DNA量でHBV感染医療従事者の職務範囲を決定している国々もあります。

 HBV感染者からの輸血や肝臓以外の固形臓器移植は当然感染リスクとなります。HBcAbのみ陽性の患者からの輸血や移植は0~13%と比較的低いリスクです。その一方、HBcAbのみ陽性の患者からの肝移植は感染リスクが75%と高くなります。

HBV genoype

 HBVは全部で7つのgenotype(A-G)までに分類されます。日本に多いgenotypeは主にBかCですが、HBV genotypeBはgenotypeCに比べて、より早いHBeAgのセロコンバージョンがみられる、その後の経過が比較的良好、HCCの発生率が比較的低いなどの点において有利であることを示した報告があります。ただし、genotypeの測定自体は、結果に応じてフォローの間隔を変えるかどうかもまだはっきりしていないので、AASLDも強く薦めていません。2009年8月現在、日本でも保険適応にはなっていません近年。近年、日本においてのB型肝炎の水平感染ではgenotypeAが多いのではとの疫学調査もあります[2]

HBVワクチン

 AASLDはCDCやACIPの推奨内容に従えという姿勢です。HBV感染患者と同居しているHBV未感染患者は当然ワクチン接種の対象です(grade I)。垂直感染を予防するために、HBVに感染している母親は出産時に直ちにHBIGとHBVワクチンを接種することを推奨しています(grade I)。

 一方AASLDは、特定の患者層の場合はワクチン接種後の抗体上昇の有無を確認することを推奨しています。すなわち、①HBsAgが陽性の母親の子ども、②医療従事者、③透析患者、④キャリアの性交渉パートナーなど曝露の危険性が高い人々です。①は9~15か月、他は接種後1~2か月以内に抗体上昇の有無を確認することを薦めています。

 またlow endemic areaのHBcAb単独陽性症例にはHBVワクチンを接種することを推奨しています(grade II-2)。なお日本はlow endemic areaではありません。

HBVの自然史

 通常HBVに感染するとHBsAgが陽性、HBeAgが陽性、HBV DNAが高値となります。小児のときに感染するとHBeAg陽性のままALTが正常となることが多く、これは“免疫寛容”と呼ばれます。このキャリアの人たちも次第にALTが上昇し、慢性肝炎となっていきます。小児期以外に感染した患者や免疫寛容でない患者は毎年8%~12%程度HBeAgのクリアランスが起きます。

 しかしHBeAbが生じてHBeAgのセロコンバージョンが起きても、経過中に再度HBeAbの消失とHBeAgの再出現が起きてしまうこともあります。またHBeAgのセロコンバージョンが起きても、HBV DNAが高値となりHBeAg陰性活動性肝炎になる症例もあります。つまりHBeAgが陰性になってもフォローは必須です。またHBsAgが陰性になりHBsAbが陽性になることもありますが、ここからのHCCの発生も報告されており悩ましいところです。

HBVとHCC

 HBVがHCCを発生させるリスクであることは有名です。HBV感染症例のHCC発生リスクを高める要因として、①HCC家族歴、②高齢、③HBeAb陽性、HBeAg陰性からHBeAb陰性、HBeAg陽性になった人、④肝硬変、⑤HBVgenotypeC、⑥core promoterの変異、⑦HCVとの共感染の7点です。また、HCCはHCVと異なり肝硬変との因果関係がなく、HBeAg陽性とHBV DNA高値はHCCの独立危険因子であることが特徴的です。

HCVやHDV、HIVとの共感染

 HCVとの共感染でもHDVとの共感染でも、肝硬変とHCCのリスクは上がります。HIVと共感染していると薬剤の選択が困難になってきます。HIV感染かつHBV未感染患者には、CD4が200/μL以上であればHBVワクチンを接種することを薦めています。

HBV外来診療とマネジメント

1.初期評価

 まず表4にあるように、家族歴、他の肝疾患の既往、飲酒歴などをチェックしていきます。また慢性B型肝炎患者にはHAVワクチンを接種することを薦めています(grade II-3)。

2.HBV DNA

 最近は、HBV DNAはリアルタイムPCRで検査されることが多く、その感度は高くなっています。ただし、HBV DNAは沈静化したB型肝炎(HBsAbが陽性になっている症例)でも検出されることがあり、治療のゴールをHBV DNA陰性化に置くのは現実的ではありません。また、HBeAbが陽性になった症例でも、肝硬変に進行している状態であれば、HBV DNAが低力価でも肝疾患が進行していく症例もあります。確かにHBV DNA量はHCCの独立危険因子ですが、それに頼らない確認を定期的に行うことが重要です。

3.肝生検

 肝生検の目的は、肝臓の障害の程度を知ることと、他の原因による肝疾患ではないか調べることです。特に治療の開始するかどうかを決める際には肝組織像は頼りになります。実際、正常ALTであっても肝生検によって肝組織の異常を発見できることもあります。したがって迷った場合は肝生検を考慮すべきです。

4.HBV感染患者の経過観察方針

 表4に概略をまとめます。

 1) HBeAg陽性、HBV DNA高値でもALT正常

 基本的に様子を見ます。ALTが上昇するなど活動性が見られるようなら治療または肝生検を考慮します。

 2)HBeAg陰性、HBeAb陽性で、ALTは正常だがHBV DNA<2000IU/mL(すなわち非活動性HBsAgキャリア)

 1年間ALTを追いかけて上昇が見られないようなら、検査・観察の間隔を開けていく戦略をとります。しかし、ALTやHBV DNAが上昇してくるようなら治療開始を考慮します(専門医に相談してください)。ALTが1年間上昇しなかったら本当の”非活動性HBsAgキャリア“と考えます。

表4 慢性B型肝炎患者のフォロー (AASLDガイドラインより改変)

初期評価 
 1.病歴と理学所見 
 2.肝疾患とHCCの家族歴 
 3.CBC、AST、ALT、ALP、GGTP、PT 
 4.HBeAg、HBeAb、HBV DNA(※日本ではTaqman PCR®という検査法を用います)
 5.HCVAbとHDVAb、HIVAb(リスクがある場合、※核酸アナログ投与の可能性やSTIとしてのHBVを考え、HIV Abはぜひ測定しておきましょう) 
 6.HCCのスクリーニング。AFPでハイリスクなら超音波検査も
     (※日本ではPIVKA2も併用してもいいかもしれません) 
 7.慢性肝炎なら肝生検は考慮

治療未適応の症例の場合
 1.HBeAg陽性、HBV DNA>20,000 IU/mL、ALT正常
  ①ALT を3~6か月ごとに測定。ALTが上昇すればさらに頻繁に測定
  ②ALTが正常範囲内または正常上限の2倍以内の時は、ALTを1~3か月ごとに確認。そのうえで肝生検を考慮。もし40歳以上、ALTは正常上限の2倍以内、肝生検で有為な炎症や繊維化が見られるということであれば治療開始を考慮
  ③ALTが正常上限の2倍以内である状態が3~6か月続いて、HBeAg陽性かつHBV DNA>20,000 IU/mLなら肝生検と治療開始を考慮
  ④HCCのスクリーニングも考慮

 2.InactiveなHBsAg陽性症例(HBsAg陽性、HBeAg陰性)
  ①ALTを3か月ごとに1年測定。ずっと正常範囲内なら少し延ばして6~12か月ごとに 確認
  ②もしALTが正常上限の1~2倍の場合、HBV DNAのレベルを測定し、他の原因がないか考慮してみる。ALTが正常ボーダーラインにある場合は肝生検を考慮。HBV DNA>2,000 IU/mL.で炎症、繊維化があれば治療を考慮。
  ③HCCのスクリーニングも考慮
*AASLDガイドラインにおけるALT正常上限は40 IU/mL


5.HCCのスクリーニング

 HCCのハイリスク要因は、①40歳以上のアジア人男性と50歳以上のアジア人女性、②肝硬変、③HCCの家族歴、④20歳以上のアフリカ系、⑤持続的または間欠的にALTが上昇またはHBVDNA>2000IU/mLです。

 これらの人は最低US(腹部超音波検査)を6~12か月ごとに施行しろと薦めています(grade II-2)。AFPもUSができない環境では選択肢に入る(grade II-2)としています。日本では両方施行してPIVKA2も測定されていることが大半でしょう。


 <References>
1)佐賀中部保健所「保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について」 (2004)
http://www.kansen.pref.saga.jp/kisya/kisya/hb/houkoku160805.htm

2)Kobayashi, M., F. Suzuki, Y. Arase, N. Akuta, Y. Suzuki, T. Hosaka, S. Saitoh, A. Tsubota, T. Someya, K. Ikeda, M. Matsuda, J. Sato, and H. Kumada. 2004. Infection with hepatitis B virus genotype A in Tokyo, Japan during 1976 through 2001. J Gastroenterol 39:844-850.

(つづく)

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