No. 422013. 05. 30
成人 > ケーススタディ

発熱、悪寒を訴えERを受診した30歳代女性(3/3)

京都市立病院感染症内科

土戸康弘、山本舜悟

(今号は3週連続で配信しました。 1号目 2号目

※本症例は、実際の症例を参考に作成した架空のものです。

前回までのまとめ

 一般的な発熱ワークアップに加えて、まずはマラリアの除外目的に、血液検査、血液培養2セット、尿定性沈渣・尿培養、胸部X線、インフルエンザ迅速検査、血液薄層塗抹ギムザ染色、マラリア迅速診断キット(BinaxNOW® Malaria)を施行した。

  • 血液検査:[末梢血] WBC3800/μL、Hb 8.8g/dL、Plt 11.7×104 /μL、Neut 67%、Stab 17%、Seg 50%、Lymph 28%、Atyp.L 1%、Mono 3%、Baso 1%
    [血液生化学] AST 25IU/L、ALT 27IU/L、LDH 615IU/L、ALP 296IU/L、γ-GTP 60IU/L、Cr 0.69mg/dL、BUN 13.0mg/dL、TG 160mg/dL、T-Chol 124mg/dL、Na 132mEq/L、K 4.4mEq/L、Cl 95mEq/L、T-Bil 1.3mg/dL、CRP 1.49mg/dL
  • 尿定性沈渣:比重1.023、pH6.0、糖(-)、蛋白(±)、潜血(-)、ケトン(-)、Bil(-)、Uro(±)、亜硝酸塩(-)、RBC 1>/HPF、WBC 1~4/HPF
  • 血液培養2セット:陰性
  • 尿培養:陰性
  • 便培養:病原菌(-)
  • 胸部X線:特記事項なし
  • インフルエンザ迅速検査:陰性
  • 血液薄層塗抹ギムザ染色(図):ringformのマラリア原虫を認める(寄生率0.3%)
  • マラリア迅速診断キット(BinaxNOW® Malaria):Plasmodium falciparum(熱帯熱マラリア)陽性
図 血液薄層塗抹ギムザ染色(1000倍)

 以上から熱帯熱マラリアと診断し、入院となった。キニーネ0.5g(1日3回)とドキシサイクリン100mg(1日2回)の内服治療を開始。第3病日の血液薄層塗抹ギムザ染色でマラリア原虫の消失を確認。特に副作用を認めず、重症化の徴候を認めることなく第6病日に退院し、キニーネとドキシサイクリンは7日間の内服で治療終了とした。

考 察

 熱帯熱マラリアは、治療の遅れにより重症化して死亡率が上昇する、見逃してはならない輸入感染症である。マラリアの潜伏期は12~35日、特に熱帯熱マラリアの多くは12~14日である一方、非熱帯熱マラリアや予防内服後の潜伏期は数か月~1年以上と長い。流行地域から帰国後の発熱では、必ずマラリアを疑うことが重要である。渡航地域に関しては、都市部より田舎、乾期より雨期、高地より低地でリスクが上がり、サハラ砂漠以南でのリスクがその他の地域と比べて高い。

 熱帯熱マラリアは、悪寒戦慄を伴う急激な発熱で発症する。その他の症状としては、悪心、頭痛、脾腫、高ビリルビン血症、血小板減少などが比較的尤度比が高いとされるが、いずれも特異的ではない。フランスのスタディでは、熱帯帰りの外来患者でのマラリア予測因子は、アフリカ旅行(OR=11.9)、腹痛(OR=14.1)、嘔吐(OR=19.4)、筋肉痛(OR=6.3)、不十分な予防(OR=10.1)、血小板数<15万(OR=25.2)が有用であった[1]。過去の研究では、血小板減少の感度が高く、低コレステロール血症の特異度が高いという報告がある[2、3]。

 確定診断は血液塗抹標本で原虫を確認することで行ない、3回陰性であれば否定的と考えられる。日本では保険収載はないが、迅速診断キットは診断の参考となる。

 本症例のように合併症のないマラリアの治療では、国内で入手できるものに限ると、メフロキンやキニーネが選択肢となる。本症例では、キニーネ+ドキシサイクリンの7日間の内服で治療を行なった。日本では認可されていないが、国際的にはartemisinin(アーテミシニン)系薬剤(artesunateやartemetherなど)が主に用いられており、WHOではartemisinin系薬剤と他のマラリア薬との合剤(artemisinin-based combination treatment;ACT)を合併症のないマラリアの第1選択薬としている(artemether/lumefantrineやartesunate/amodiaquineなど)。

 本症例は熱帯熱マラリアと診断されたが、幸い重症化することはなかった。渡航後の発熱患者で絶対に見逃してはならないのが熱帯熱マラリアである。渡航後の発熱患者では、渡航先・期間、食事、活動内容、動物接触歴、予防接種・内服などの詳細な問診により鑑別を行ない、鑑別疾患を想定したうえで検査を進めていくことが重要である。マラリアを疑った場合は、専門機関へのコンサルト・転送を躊躇なく行なうように心がけていただきたい。熱帯病治療薬研究班のウェブサイト[4]に専門医療機関一覧が掲載されている。また、同サイトからは「寄生虫症薬物治療の手引き 改訂(2010年)第7.0.1版」がダウンロードできるので参考にされたい。


【References】
1)Ansart S,Perez L,Thellier M,et al:Predictive factors of imported malaria in 272 febrile returning travelers seen as outpatients.J Travel Med.2010 Mar-Apr;17(2):124-9.
2)Taylor SM,Molyneux ME,Simel DL,et al:Does this patient have malaria? JAMA.2010 Nov 10;304(18):2048-56.
3)Badiaga S,Barrau K,Parola P,et al:Contribution of nonspecific laboratory test to the diagnosis of malaria in febrile travelers returning from endemic areas:value of hypocholesterolemia.J Travel Med.2002 May-Jun;9(3):117-21.
4)厚生労働科学研究費補助金医療技術実用化総合研究事業 熱帯病治療薬研究班(略称)ウェブサイト
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/parasitology/orphan/index.html

(了)

記事一覧
最新記事
手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に
成人 > ケーススタディ
No. 972022. 08. 10
  • 東京大学医学部附属病院 感染症内科
  • 脇本 優司、岡本 耕
    手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に

    はじめに 全身の中でも手指が最も外傷を負いやすいこともあり、手感染症(hand infection)は頻度の高い皮膚軟部組織感染症の一つである。手感染症は侵される解剖学的部位や病原体などによって分類されるが、中でも化膿性腱鞘炎は外科的緊急疾患であり、早期の治療介入が手指の機能予後…続きを読む

    臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例
    成人 > ケーススタディ
    No. 862021. 01. 29
  • 井手 聡1、2)、森岡慎一郎1、2)、松永直久3)、石垣しのぶ4)、厚川喜子4)、安藤尚克1)、野本英俊1、2)、中本貴人1)、山元 佳1)、氏家無限1)、忽那賢志1)、早川佳代子1)、大曲貴夫1、2)
  • 1)国立国際医療研究センター国際感染症センター
  • 2)東北大学大学院医学系研究科新興・再興感染症学講座
  • 3)帝京大学医学部附属病院感染制御部
  • 4)帝京大学医学部附属病院中央検査部
  • 臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例

    キーワード:diphtheria、bradycardia、antitoxin 序 文 ジフテリア症は、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染によって生じる上気道粘膜疾患である。菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡…続きを読む

    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)
    成人 > ケーススタディ
    No. 662018. 12. 05
  • 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科
  • 小林 謙一郎、久保 健児、吉宮 伸洋
    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)

    本号は3分割してお届けします。 第1号 第2号 *本症例は、実際の症例に基づく架空のものです。 前回のまとめ 和歌山県中紀地方に居住している78歳女性。10日以上続く発熱、倦怠感があった。血球減少が進行したため、血液疾患やウイルス感染症を疑って骨髄検査や血清抗体検査を実施し、重症…続きを読む