No. 302011. 10. 11
成人 > レビュー

侵襲性カンジダ症の診断と治療(2/3)

関東労災病院総合内科

比嘉 令子、岡 秀昭

(今号は3週連続で配信しています。 1回目


 2回目の配信は、侵襲性カンジダ症の診断についてです。

 侵襲性カンジダ症を漏れなく診断することは、しばしば困難です。後述する血液培養の感度の低さに加え、バイオマーカーなどの補助診断も研究段階であるため、決定的な指標を欠き、重症度、リスク因子、臨床状態を加味して臨床診断をする必要があります。

 侵襲性カンジダ症の診断の難しさの根本には、カンジダが常在菌に近いものであるため、病原性を持つものと、そうでない定着を見分けることが難しいことがあります。また、侵襲性カンジダ症を拾い上げるはずの血液培養の感度の低さがあります。

血液培養

 血液培養の感度の低さについては、実際に、数十年にわたる研究で、剖検にて侵襲性カンジダ症と診断されたうち、およそ半数しか血液培養が陽性にならなかった――との研究結果が提示されています[1、2]。ゆえに、血液培養からはカンジダが検出されていなくても、「臨床診断」で治療を開始する必要もあります。

 侵襲性カンジダ症のgold standard(絶対診断基準)は血液培養陽性によります。ですから、侵襲性カンジダ症が疑われていれば、血液培養は全例で採取する必要があります。

 血液以外の、喀痰、尿、創部などの培養からのカンジダ検出の多くが、カンジダの定着を示唆することが多いのに対して、血液培養からカンジダが検出された場合の多くはコンタミネーションとは解釈せず、カンジダ血症とみなされます。

 カンジダ血症では、必ず播種性病変の検索を行なう必要があります。カンジダ血症は、高い死亡率と眼内炎などの合併症のリスクなどを伴うため、カンジダの血液培養陽性例は原則として治療の対象となります。

侵襲性カンジダ症のリスクファクター

 侵襲性カンジダ症を起こす状況については、「免疫不全者」「高カロリー輸液を行なっている」「広域抗菌薬使用」「こじれた腹部外科術後患者」などのイメージを持つとよいと思われますが、実際のところ、侵襲性カンジダ症には表1のようなリスクファクターが挙げられています。

・ステロイド、化学療法薬、免疫調整薬などによる免疫抑制、悪性腫瘍、糖尿病、HIV感染など

・好中球減少

・中心静脈カテーテル、高カロリー輸液(TPN)

・広域抗菌薬使用

・APACHE(acute physiology and chronic health evaluation)スコア高値

・ICU滞在

・手術後症例、特に腹部手術後症例、消化管穿孔、吻合不全

→カンジダ血症の1/2~2/3がICUまたは外科病棟での発症例である

・急性腎不全、特に血液透析症例

・未熟新生児、年齢

・外傷ないし熱傷

・埋め込み式人工装置

・H2blocker使用

・カンジダ定着状態、過去の定着、複数部位の定着

表1 侵襲性カンジダ症のリスクファクター

 

 しかしながら、列挙されているこれらのリスク因子を有していても、実際に侵襲性カンジダ症を生じる症例はその中の一部であり、これらの因子をどう診断に役立てるのかという明確な基準はまだ確立されていません。これらのリスク因子を実際に数値化して臨床予測をしようという試みはあり、カンジダスコアと呼ばれています[3]。

 

カンジダスコア

 カンジダスコアとは、「複数定着菌」「手術後」「重症敗血症」「高カロリー輸液」の4つのリスク因子を挙げ、「複数定着菌」×1点+「手術後」×1点+「重症敗血症」×2点+「高カロリー輸液」×1点で得られた合計得点に対してカットオフ値を設け、一定のカットオフ値以上であれば経験的治療を開始するという試みです。カンジダスコアのカットオフ値を2.5とした場合では、感度 81%、特異度74%となり、これだけで治療開始の要不要を決定できるほどの精度はありません。

 その後の追試では、ICUに7日間以上入院していて、かつ、抗真菌薬の投与を受けていない場合にカンジダスコア3.0未満であれば、侵襲性カンジダ症の発生率は5%未満である――との結果が出ています。つまり、カンジダスコアはICUでの侵襲性カンジダ症の除外に有用と考えられます。

 しかし、カンジダスコアは特異度を欠くため、侵襲性カンジダ症が疑われる場合の経験的治療の開始は、臨床リスク因子の評価に加えて、β-Dグルカンなどの血清診断、重症度などを総合して判断するとよいと考えられています。

 

診断補助としての検査

 侵襲性カンジダ症の診断補助としては、(1→3)-β-Dグルカンを用いるものが最も有名ですが、この検査には表2のような弱点があります。

・国内外で複数の検査があり、それぞれ用いられる試薬や前処置が違い、検査法やカットオフ値によって感度・特異度が異なってくる。

・感度・特異度ともに最高で80~90%台と、決め手に欠ける値である。

・比較的良好な検査成績が得られた研究の多くが血液悪性腫瘍領域や健常者を含む群を取り上げたもので、母集団の特性に大きな違いのあるICU患者などには適応しがたい。

・重症度や治療効果を反映しない。

・偽陽性率が高い。

→血液透析、免疫グロブリン使用、ガーゼの使用、カンジダの定着などによってもたらされる

表2 (1→3)-β-Dグルカンによる検査の弱点

 

 (1→3)-β-Dグルカンについて、検査法やカットオフ値による具体的な感度・特異度のばらつきは表3のようになります[4~7]。ただし、これらの数値は、侵襲性カンジダ症に限らない侵襲性真菌感染症(IFI)全般における感度・特異度を示している点に注意が必要です。

検査法カットオフ値感 度特異度

MK法(国内)

30pg/mL

60pg/mL

80pg/mL

95.1%

85.4%

78%

85.7%

95.2%

98.4%

改良MK法

20.0pg/mL

26.0pg/mL

75%

75%

91.6%

95.8%

ワコー法(国内)

7pg/mL

63%

96%

Fungitell法(海外)

80pg/mL

60%

84%

表3 (1→3)-β-Dグルカンによる検査の感度・特異度

 

 そのほか、(1→3)-β-Dグルカン値以外の診断補助となりうる検査として注目を浴びているものに、リアルタイムPCR法、血清中のマンナン抗原と抗マンナン抗体のコンビネーション検査があります。前者では感度 95%で特異度92%、後者では感度85%で特異度95%と、いずれも好成績でした[8、9]。しかしながら、それぞれカンジダ血症の早期診断法として期待されてはいるものの、研究の対象症例数が少ないため、さらなる研究結果が待たれる段階です。

 

 それでは、侵襲性カンジダ症の診断についてまとめます。

・侵襲性カンジダ症の診断には血液培養が重要ですが、感度が不充分です。

・カンジダスコアは、侵襲性カンジダ症の除外に有用な可能性があります。

・血液培養が陰性でも、重症度、リスクファクター、臨床状態を加味して臨床診断を行なう必要があります。

・(1→3)-β-Dグルカンなどの補助診断が利用できるが、弱点も多いので、解釈に注意が必要です。


【References】
1)Bodey GP: Fungal infections complicating acute leukemia. J Chronic Dis. 1966 Jun; 19(6): 667-87.
2)Hart PD, et al: The compromised host and infection. II. Deep fungal infection. J Infect Dis. 1969 Aug; 120(2): 169-91.
3)Leon C, et al: A bedside scoring system(“Candida score”)for early antifungal treatment in nonneutropenic critically ill patients with Candida colonization. Crit Care med. 2006 Mar; 34(3): 730-7.
4)Obayashi T, et al: Reappraisal of the serum (1–>3)-beta-D-glucan assay for the diagnosis of invasive fungal infections–a study based on autopsy cases from 6 years. Clin Infect Dis. 2008 Jun 15; 46(12): 1864-70.
5)Senn L, et al: 1,3-Beta-D-glucan antigenemia for early diagnosis of invasive fungal infections in neutropenic patients with acute leukemia. Clin Infect Dis. 2008 Mar 15; 46(6): 878-85.
6)Karageorgopoulos DE, et al: β-D-glucan assay for the diagnosis of invasive fungal infections: a meta-analysis. Clin Infect Dis. 2011 Mar 15; 52(6): 750-70.
7)吉田耕一郎・他: 改良アルカリ前処理法を用いた(1→3)-β-D-グルカン測定法の臨床的有用性―従来法との比較, 感染症学雑誌, 80(6): 701-705.
8)Avni T, et al: PCR diagnosis of invasive candidiasis: systematic review and meta-analysis. J Clin Microbiol. 2011 Feb; 49(2): 665-70.
9)Sendid B, et al: Increased sensitivity of mannanemia detection tests by joint detection of alpha- and beta-linked oligomannosides during experimental and human systemic candidiasis. J Clin Microbiol. 2004 Jan; 42(1): 164-71.

(続く)

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