No. 292011. 08. 23
成人 > ケーススタディ

一度に3人の頭痛患者が救急外来にやって来たら……(1/3)

京都市立病院感染症内科

山本 舜悟

(今号は3週連続で配信します。)

 あなたは総合病院に勤務している10年目の内科医師。年の暮れのある日、救急当直中です。深夜1時、救急外来で当直中に3人の頭痛患者が同時に来院しました。

  • 1人目は42歳男性、普段は心療内科に通院中。
  • 2人目は73歳女性、高血圧と高脂血症で通院中。
  • 3人目は特に通院歴のない33歳女性でした。

 この中の1人 は命の危機に瀕しています。救急外来には、あなたと1年目の研修医、看護師が1人だけ。緊急血液検査、尿検査、髄液検査、単純レントゲン、腹部エコー、CT検査が可能です。
さて、あなたならどうする?

内科医 「やれやれ。3人同時に頭痛なんて勘弁してほしいな」

看護師 「先生の日頃の行いが表れますね」

内科医「まったく。じゃあ、まず、トリアージしていこう。研修医くん、君は73歳女性を担当、ナースさんは33歳女性を担当だ。僕は42歳男性を担当する。42歳は男の厄年、厄年は怖いからな。最初にバイタルサインのチェックと、次の3つの質問をして答えを知らせてくれ。『頭痛は突然発症したか?』『頭痛はだんだん悪化しているか?』『頭痛は人生最悪の痛みか?』――いいかな?」

看護師「先生!」

内科医「なに?」

看護師「33歳は女性の厄年ですよ」

内科医「そうか、そしたら厄除けのお祓いをしているかどうかも聞いといてね」

 5分後――。

看護師「先生、33歳の女性の患者さんは、職業は幼稚園の先生、バイタルはBP96/60、HR86、RR22、BT38.3℃でした。3つの質問については、突然発症ではなく、人生最悪の痛みではないそうですけど、今朝からの発熱と頭痛でだんだん悪化しているそうです。かなりつらそうです」

内科医「そうか、ありがとう。意識状態は大丈夫?」

看護師「つらそうでちょっとボーッとしています。一応受け答えはできますが、『今日は11月』と答えて日付だけ間違えていました。厄除けはしていないそうです」

内科医「それはまずいな」

研修医「先生、73歳女性の方ですけど、バイタルはBP130/80、HR76整 、RR12、BT36.0℃でした。3つの質問の答えはすべて『はい』でした。高齢者だし、高血圧とかリスクファクターもあるし、CT撮ったほうがいいんじゃないでしょうか? 脳出血とかが心配です」

内科医「『とか』? 『とか』って、ほかに何があるの?」

研修医「ええと。くも膜下出血とか脳梗塞とか……」

内科医「ああそう。まあ、その話は後にして、この人はちょっと待っておいてもらおう。
僕はこの42歳の患者さんのCTを撮りに行くから、研修医くんは33歳女性の診察を。髄膜炎かもしれないから、ルート確保して、採血、血培2セット、腰椎穿刺の準備もね」

研修医「え!? この73歳の患者さんは放っておいてもいいんですか? こちらのほうが重症っぽいですけど。そっちの患者さんは心療内科通院中の人だし、どうせ精神的なものじゃないんですか?」

内科医「偏見でものを言うんじゃないよ。3人同時に診察できないんだから、仕方ないだろう」

 さて、内科医はなぜ42歳男性の診療を優先させたのだろうか?
時間は5分巻き戻る。

(続く)
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