No. 22008. 08. 26
成人 > レビュー

黄色ブドウ球菌菌血症のマネージメント (3/3)

  • 横浜市立大学病態免疫制御内科学  (リウマチ・血液・感染症内科、呼吸器内科)
  • 岡 秀昭

    (※今号のミニレビューは、3週連続で配信しました。)


    前回まで、黄色ブドウ球菌菌血症の診断、合併症、治療期間などを取り上げてきましたが、今回は黄色ブドウ球菌菌血症に対する抗菌薬の選択について考えたいと思います。

    適切な選択薬は?

    黄色ブドウ球菌の敗血症を疑う場合、まず感受性判明までの初期治療と、MSSAと判明した場合、MRSAと判明した場合の標的治療について分けて考えてみます。

    初期治療としては、入院歴や全身状態などにもよると思われますが、バンコマイシンを感受性判明まで開始しておくことは多くの場合で適切であると考えます。市中発症で、MRSAの頻度が低い地域であれば、臨床症状によりMSSAをターゲットにセファゾリンのみでもよいかもしれません。非常に重篤な場合はバンコマイシンにセファゾリンを併用しておくことも、後述するバンコマイシンの抗菌活性の劣性からも考慮してよいのではないでしょうか。

    MSSAと判明した場合、nafcillinやoxacillinなどの抗黄色ブドウ球菌ペニシリンが世界的な第1選択薬でありますが、ご周知のとおりわが国では入手できません。そのため、世界的第2選択薬であるセファゾリンが第1選択薬として奨められています。まれに、ペニシリンGに感受性を示すときがありますが、臨床的に使用できるかはin vitroでのMIC値とβラクタマーゼ試験の結果によるとされています。

    もし、アナフィラキシーのような重篤なペニシリンアレルギーがある場合や、セファゾリンにアレルギーがある場合は、バンコマイシンを使用することになると思います。しかし、過去の臨床試験で、バンコマイシンは抗黄色ブドウ球菌ペニシリンのようなβラクタム薬に比較して劣性であるという臨床試験が複数あり、通常はMSSAへの使用は避けるべきです。ST合剤、クリンダマイシン、ミノサイクリンは黄色ブドウ球菌の菌血症では避けたほうがよいでしょう。 

    MRSAの場合は、いくつかの新規薬剤の開発があっても、現状では多くの場合でバンコマイシンが第1選択と考えます。理由は、MRSA治療において、長期にわたる臨床実績があるからです。しかしながら前述のように、バンコマイシンは抗黄色ブドウ球菌ペニシリンのようなβラクタム薬より効果の劣る薬剤であり、さらに近年はヘテロ耐性による治療失敗も懸念されています。バンコマイシンによる治療が奏効しないように思えるとき、今まで述べてきた合併症の検索が大切ですが、MICが2μg/mLの場合、臨床効果が乏しくなるという指摘があります。このようなMICの上昇に対して、バンコマイシンのトラフ濃度を上げることが臨床効果を改善させるかは、不明です。バンコマイシンのトラフ濃度は、10~15μg/mLが現在では奨められているようですが、適切なトラフ濃度も不明なようです。

    バンコマイシンに併用する治療薬としては、リファンピシン、ゲンタマイシンが挙げられますが、まずリファンピシンについては、人工弁の感染性心内膜炎(IE)ではその併用が推奨されていますが、菌血症や自然弁心内膜炎においては併用の有効性は十分に示されていないようです。さらに、薬剤相互作用や肝障害などの副作用の増加、リファンピシン耐性菌の増加が指摘されています。そのため、併用については慎重であるべきだと考えます。感受性がある場合、ゲンタマイシンの併用は菌血症の期間を1日ほど短縮することが、MSSAの心内膜炎で示されています。しかし、予後の改善は示されておらず、腎障害のリスクを上げるとされています。以上から、3から5日の短期の併用を、腎機能に問題がない、心内膜炎や持続菌血症の場合には考慮していいかもしれません。

    MRSA菌血症治療薬として、バンコマイシンに代わる薬剤は、米国ではDaptomycinの評価が高いようですが、わが国ではまだ使用できません。現在、わが国で使用できる薬剤はテイコプラニン、リネゾリド、アルベカシン、キヌプリスチン・ダヌフォプリスチン(わが国ではMRSAへの保険適応がないため割愛します)が挙げられます。このうち、アルベカシンは全く利用できる臨床試験が見当たらず、評価不能なため割愛します。 テイコプラニンは、バンコマイシンと比較した11の臨床試験のメタ解析では、効果は同等、副作用はやや少なかったと報告されており、バンコマイシンより長い半減期を持って1日1回投与が可能です。しかし、米国で使用できないためか、大規模なRCTはなく、わが国ではバンコマイシンに次ぐ第2選択薬という位置づけであると考えます。リネゾリドはオキサゾリジノン系の静菌的な薬剤であり、MRSA菌血症や心内膜炎の治療で有効という報告もありますが、治療失敗も多く報告されているようです。また、長期投与に際して血小板減少や末梢神経障害など副作用の懸念があります。FDAではMRSA菌血症に対しては、リネゾリドを認可していません。さらに、バンコマイシン耐性腸球菌VREなどバンコマイシン耐性菌への数少ない薬剤の一つと認識して、大切に使用することも重要な考え方かと思います。わが国においては、MRSA菌血症に対してリネゾリドは、やはりバンコマイシン、テイコプラニンに次ぐ選択薬として慎重に考慮すべきでしょう。


    ミニレビュー黄色ブドウ球菌菌血症の最終回は、その治療薬について取り上げました。我が国の現状では、MSSAにはセファゾリン、MRSAにはバンコマイシンが現時点での標準治療薬であると思います。

    黄色ブドウ球菌は血液培養で大変よく検出される微生物だと思います。IDATENメールマガジンの配信が開始され、まずよりコモンな感染症を取り上げようと考えたためにこのテーマにしました。至らない点、不足、修正すべき点も多いかと思いますが、少しでも皆様の日常診療の参考になれば幸いです。


    <参考文献>

    1)Sara E.Cosgrove and Vance G. Fowler,Jr:Management of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus bacteremia: Clin Infect Dis 2008;46(Suppl5)S386-93.
    2)Lowy FD:Staphylococcus aureus infections.N Engl J Med 1998 Aug 20;339(8):520-32.
    3)青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 p985-989.

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