KANSEN Journal No.66(2018.12.5)

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【Case Study(3/3)】

1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と
血球減少のため紹介された78歳女性[3]


日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科
小林謙一郎、久保健児、古宮伸洋

 


 

本号は3号連続でお送りします。 第1号 第2号

*本症例は、実際の症例に基づく架空のものです。


前回のまとめ

和歌山県中紀地方に居住している78歳女性。10日以上続く発熱、倦怠感があった。血球減少が進行したため、血液疾患やウイルス感染症を疑って骨髄検査や血清抗体検査を実施し、重症熱性血小板減少症ウイルス(SFTSV)の遺伝子検査を保健所に依頼した。

数日後、SFTSVの遺伝子検査(PCR)が陽性であると報告を受けた。


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診断:重症熱性血小板減少症(SFTS)

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重症熱性血小板減少症(severe fever with thrombocytopenia syndrome;SFTS)は、2011年に中国でブニアウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによるダニ媒介感染症として報告された。国内では、2013年1月に渡航歴のない患者がSFTSに罹患していたことが初めて報告され[1]、2013年3月に感染症法上の4類感染症に指定されて以降、西日本を中心に報告数が増えている(表1)[2]。

2018年9月末の時点で、国内では381人のSFTS患者が報告されている。男女比はほぼ1:1(184:197)で、患者の年齢中央値は74歳である[2]。SFTSの症例は5-10月に報告が多く、患者の発生はほぼ西日本に限られている(図1)[2]。



表1 死亡数の年次推移(2018年9月26日時点)

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(文献2より引用)




図1 SFTS症例の届出地域(n=381)
(文献2より引用)
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マダニへの曝露歴

国内でSFTSVを保有するマダニは、フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニが代表的である。国内の報告によると、SFTSでは日本紅斑熱やツツガムシ病と比べてマダニの刺咬痕がみられる頻度が低いと言われている(日本紅斑熱:66%、ツツガムシ病:85%、SFTS:44%)[3、4]。また、中国の報告では、SFTS患者のうちマダニ刺咬歴のあったものは40%程度であった[5]。当院では本症例の後にさらに1例のSFTS症例を経験したが、いずれもダニへの曝露歴がなく、病歴から疾患を否定することは難しいと感じた。


SFTSの臨床的特徴

潜伏期間は6〜14日で、発熱、倦怠感、頭痛といった非特異的な症状で発症する。発症後、嘔吐や下痢症状などの消化器症状がみられることが多い。また、血液検査では白血球, 血小板の減少がみられることが多い(表2)[6]。

2013-2014年に国内で報告されたSFTSの臨床的特徴をまとめた報告(n=48)によると、肝逸脱酵素、LDHの上昇がよくみられた(AST〔IU/L〕:中央値125、四分範囲80-252/ALT:中央値55、四分範囲39-108/LDH〔IU/L〕:中央値431、四分範囲351-908)。発熱は数日から1週間程度みられ、第7病日頃が臓器不全を合併する時期で、ショック、急性呼吸促迫症候群、脳症、腎障害、心筋障害、播種性血管内凝固症候群、血球貪食症候群などが知られている[7]。SFTS報告例の一部にしか骨髄検査が実施されていないため、血球貪食症候群の合併率は不明である。国内で2013-2014年に報告されたSFTSのまとめでは、骨髄検査を実施された18例中15例(83%)で血球貪食症候群の合併がみられた[3]。



表2 SFTSの臨床的特徴(感染症発生動向調査:2016年2月24日時点)

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(文献6より引用)


SFTS患者における血清CRP値

当院で経験したSFTSの2症例は、いずれも血液検査で腎障害や肝逸脱酵素の上昇がみられたが、CRPは陰性だった。他の施設でSFTSの治療経験のある臨床医からも、SFTS症例ではCRPが陰性のことが多いという意見が聞かれた。SFTS患者の血清CRP値についての報告(表3)[3]では、CRPが測定された時期と患者の臨床経過との関連が明らかではなく解釈には注意を要するが、死亡例も含めてもやはり低値であった。限られた知見ではあるが、原因不明の発熱患者で多臓器障害がみられるにもかかわらずCRPが陰性というのは、SFTSを疑う一つの手がかりかもしれない。



表3 SFTS患者における血清CRP値

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(文献3をもとに筆者作成)


報告例の死亡率の推移

本症例の入院時は第12病日であり、臓器不全期の時期であった。しかし、出血、腎障害、脳症、急性呼吸促迫症候群などの合併症はみられず、経過良好であった。

国内でSFTSが発見された当初、SFTS症例の死亡率は30%以上であったが、死亡率は年々低下傾向で、2018年の死亡率は5%未満であった(表1)[2]。この結果は、感染症発生動向調査において届出時点の情報であることから、実際の死亡率はより高い可能性がある。しかし、(1)SFTSの認知度が向上したこと、(2)地方衛生研究所でSFTSの検査を実施できるようになり臨床医が検査を依頼しやすくなったことなどにより、本症例のように軽症SFTS症例でも診断が付くケースが増えてきた可能性がある。


経過のまとめ

本症例では、明らかなダニの曝露歴がなく、刺咬痕もみられなかった。しかし、血液検査所見(血球減少、CRP陰性など)や、SFTSが報告されている地域で山間に居住していたことからSFTSを疑い、診断に至った[8]。

対症療法によって入院3日後(第14病日)に解熱し、臓器不全はみられず、経過は良好であった。血液検査では、白血球・血小板は減少、肝逸脱酵素・LDHは上昇、CRPは陰性であり、今までの報告と合致する所見であった。


Take home message

・最近のSFTSの死亡率は5%未満と報告されており、“軽症”重症熱性血小板減少症が存在することに留意する。 ・SFTSの流行地域ではダニの曝露歴がなくても、「発熱+血球減少+CRP陰性」はSFTSを疑う手がかりなのかもしれない。

 

 

【References】

1)Takahashi T, Maeda K, Suzuki T, et al: The first identification and retrospective study of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Japan. J Infect Dis. 2014 Mar; 209(6): 816-27.
2)国立感染症研究所: 重症熱性血小板減少症候群(SFTS). IASR. 2018.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html
3)Kato H, Yamagishi T, Shimada T, et al: Epidemiological and Clinical Features of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Japan, 2013-2014. PLoS One. 2016 Oct 24; 11(10): e0165207.
4)国立感染症研究所: つつが虫病・日本紅斑熱2007〜2016年. IASR. 2017 July; 38: 109-12.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsutsugamushi-m/tsutsugamushi-iasrtpc/7324-448t.html
5)Hu JL, Li ZF, Wang XC, et al: Risk Factors for Bunyavirus-Associated Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: A Community-Based Case-Control Study. PLoS One. 2016 Nov 15; 11(11): e0166611.
6)国立感染症研究所: 国内発生動向調査よりみられるSFTSの疫学情報. IASR. 2016 Mar; 37: 41-2.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2342-related-articles/related-articles-433/6309-dj4331.html
7)加藤康幸: 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き, 改訂版(第4版), 2016.
https://www.dcc-ncgm.info/topic/topic-sfts/
8)Shimazu Y, Saito Y, Kobayashi KI, et al: Non-severe form of severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS). Ann Hematol. 2018 Apr; 97(4): 735-736.



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