KANSEN JOURNAL No.11(2009.7.8) 
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[ミニレビュー]

発熱+関節炎へのアプローチ (3/3)

東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科

萩野 昇


(3分割配信の3回目です→1回目 2回目

細菌感染症による多発関節炎(続)

  化膿性関節炎の治療
 関節液の塗抹・グラム染色の結果を参考にして抗菌薬を選択する。ただし、関節液のグラム染色が陽性になるのは化膿性関節炎全体の約50%に過ぎない。上述のように化膿性関節炎を疑う臨床証拠があれば、リスクファクターを考慮しつつEmpiricalな治療を開始する必要がある。

 本邦の保険適応症などを考慮すると、グラム染色の結果を基にしたEmpiricalな治療の一例としては以下のようになる[1][2]。
  Gram-positive cluster : Cefazolin 2g×8時間間隔(本邦の用量は最大 5g/day)
  MRSA感染症が疑われるとき : Vancomycin
  Gram-positive in chain : Penicillin G or ABPC
  Gram-negative Cocci : Ceftriaxone
  Gram-negative Rod : Cefepime 1g×8時間間隔

 化膿性関節炎の治療効果を高めるためには、罹患関節からの排膿(関節ドレナージ)が必須であると考えられている。これはrandomised controlled trialsによって裏づけられたものではなく、専門家の意見によるものであるが、多くの場合(治療効果の確認の意味も含めて)施行が勧められる。外科的(関節鏡下・関節切開)排膿と穿刺・吸引のいずれが優れているかについて、成人を対象にした前向き試験は存在せず、Retrospectiveな解析では穿刺・吸引による排膿のほうが化膿性関節炎の初期治療として優れている可能性が示唆されている[3] 。

 関節の安静(joint immobilization)について一致した見解はなく、安静よりも早期からのリハビリテーションが筋萎縮・関節拘縮の予防につながるとする意見もある。

その他感染症による関節炎

反応性関節炎(Reactive arthritis)
 下肢を中心としたoligoarthritis、あるいは移動性関節炎をきたす。HLA-B27陽性患者での頻度が高いが、診断を確定する検査はなく、病歴・臨床症状から診断する。先行する性感染症、結膜炎、尿道炎、手指炎(dactylitis)、付着部炎(enthesopathy)、口腔内潰瘍、仙腸関節炎(sacroillitis)などの所見に注意を要する。通常は一過性だが、15-30%の患者で慢性関節炎に移行する(なお、”Reiter’s syndrome”の呼称は、提唱者Hans Reiterのナチスドイツへの積極的関与が判明して以来、使用されなくなっている:余談[4])。

海外渡航後の発熱+関節痛[5]
 海外渡航歴のある患者の発熱を診療するとき、マラリア、デング熱、レプトスピラ感染症、腸チフス、リケッチア感染症、アルボウィルス感染症(Chikungunya virus, West Nile virus,etc.)などが鑑別診断に挙がる。マラリア、デング熱は高サイトカイン血症に伴う非特異的な関節痛をきたすことがある。
 チクングニヤウィルス感染症は、発熱と強い関節痛が前景に立ち、発疹が75%、結膜充血が20%に認められたとする報告がある。潜伏期間は短く、平均2-4日(range 1-14日)である。手関節・足関節・手指の指節間関節などを侵し、小関節の罹患が目立つ。治療は主にNSAIDによる対症療法となる[6]。
(本邦での輸入症例については、国立感染症研究所のウェブサイトhttp://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/Aiphavirus/Chikungunyahtml.htm を参照のこと)

抗酸菌性関節炎
 結核性関節炎は中〜大関節の慢性関節炎の原因として重要である。HIV感染者の増加、ならびに関節リウマチ・炎症性腸疾患などの治療に用いられるTNF阻害薬の導入に伴って今後診療の機会が増えると予想される。関節液の抗酸菌培養に加えて滑膜生検組織の培養を行うことによって診断感度の向上が期待される[7]。
 Mycobacterium marinum感染症による関節炎も報告されている[8]。Clinical contextによっては同感染症も考慮する必要があるだろう。

<References>

1.青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版,医学書院, 2007.

2.Garcia-De La Torre I, Nava-Zavala A. Gonococcal and nongonococcal arthritis. Rheum Dis Clin North Am. 2009 Feb;35(1):63-73.

3.Goldenberg DL, Brandt KD, Cohen AS, Cathcart ES. Treatment of septic arthritis: comparison of needle aspiration and surgery as initial modes of joint drainage. Arthritis Rheum. 1975; 18:83-90.

4.Wallace DJ, Weisman MH. The physician Hans Reiter as prisoner of war in Nuremberg: a contextual review of his interrogations (1945-1947). Semin Arthritis Rheum..2003 Feb;32(4):208-30.

5.Cristian Speil, Adnan Mushtaq, Alys Adamski, Nancy Khardori. Fever of Unknown Origin in the Returning Traveler Infect Dis Clin N Am .21 (2007) 1091-1113.

6.Taubitz W, Cramer JP, Kapaun A, et al. Chikungunya fever in travelers: clinical presentation and course. Clin Infect Dis. 2007;45:e1-4.

7.Wallace R, Cohen AS.Tuberculous arthritis: A report of two cases with review of biopsy and synovial fluid findings. Am J Med. 1976;61:277-82.

8.Harth M, Ralph ED, Faraawi R. Septic arthritis due to Mycobacterium marinum. J Rheumatol.1994 May;21(5):957-60.

(了)


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