KANSEN JOURNAL No.11(2009.7.31) 
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[ミニレビュー]

発熱+関節炎へのアプローチ (2/3)

東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科

萩野 昇


(3分割配信の2回目です→1回目


ウィルス感染症による多発関節炎(続)

 前号に引き続き、ウィルス感染症による多発関節炎(HIV, HTLV-1)について述べる

Parvovirus B19
 小児ではりんご病(fifth disease)が有名だが、成人においては急性の関節リウマチ様多発関節炎を引き起こすことがある。男性よりも女性に感染した場合に関節炎を引き起こす頻度が高い。発熱は比較的稀で、約15%に顔面紅斑が見られる。
 診断は「パルボウィルスB19-IgM抗体(抗VCA-IgM抗体)」による(「紅斑が出現している妊婦について、このウイルスによる感染症が強く疑われ、IgM型抗体価を測定した場合」のみに保険算定)。

HBV
 急性B型肝炎の前黄疸期に対称性関節炎(手関節・膝関節)が生じ、発熱・蕁麻疹様皮疹を伴うことがある。関節炎は黄疸に約10日間先行し、黄疸の出現とともに消失する。慢性B型肝炎においては、クリオグロブリン血症に伴う関節症状が出現することがある。

HCV
 高齢男性の急性C型肝炎において、関節症状が生じることがある。また、慢性C型肝炎・クリオグロブリン血症に伴う関節症状が出現することがある。

風疹(Rubella)
 Parvovirus B19同様、関節リウマチに類似した手指の対称性多関節炎を起こすことがある。またワクチン接種後、特に成人において一過性関節炎の発症を認めることがある。

HIV感染症
 急性HIV感染症(Acute retroviral syndrome)において、「関節痛」は60-80%の症例で出現するとされている。
 IgG抗体およびIgM抗体に加えて、HIVコア蛋白質であるp24抗原を検出する「第4世代」HIV抗体検査が使用されるようになり、ウィンドウピリオドの短縮が期待されるが、疑わなければ診断できないのは従来どおり。
 また、HIV感染症の臨床経過において、強い関節痛(必ずしも炎症所見を伴わない)が認められることがある(painful articular syndrome)。またHIV感染者においては反応性関節炎の発症頻度が高いとする報告もある[1]。

HTLV-1
 HTLV-1感染によって生じる関節症状をHTLV-1 associated arthropathy(HAAP)と称する。関節リウマチ様の滑膜増生を呈し、ATLLの顕在化に数年先だって発症することもある[2] 。
 HTLV-1感染症は、関節症状以外にも、神経疾患であるHAM(ヒトT細胞 ウイルス I 型脊髄症、HTLV-1関連脊髄障害)/TSP(熱帯性痙性不全対麻痺)、肺疾患であるHAB(HTLV-1関連気管支・肺障害)、眼疾患であるHAU(HTLV-1関連ぶどう膜炎)を引き起こすとされる。

細菌感染症による多発関節炎

 淋菌性と非淋菌性に大別される。

・淋菌性関節炎(Gonococcal arthritis)

 淋菌性関節炎はSexually-activeな若年者の細菌性関節炎の原因として最も一般的であり、男性:女性比は約1:3である。病像には2型あり、典型的な「三徴」:移動性多発関節炎・皮膚病変・腱滑膜炎(tenosynovitis)をきたすものと、非対称性単関節炎・多関節炎で発症するものがある。腱滑膜炎は手関節・足関節・手指小関節を侵し、強い疼痛を伴う(写真1)。
  関節液のグラム染色は感度が低く、50%以下とされている。性交渉歴の聴取とともに、咽頭・子宮頸部・尿道・直腸からもNeisseria gonorrhoea培養検体を採取することが診断確定においては重要である。また、PCRの有用性も報告されている[3] 。
 淋菌性関節炎は抗菌薬開始後速やかに軽快するため、診断確定が困難な症例においてはCeftriaxoneによる診断的治療(Therapeutic diagnosis)が試みられることもある。


写真1 淋菌性関節炎による関節炎:手指小関節の発赤・腫脹を認める
(東京都立駒込病院 感染症科 柳沢如樹先生のご厚意による)


・非淋菌性化膿性関節炎(以下単に「化膿性関節炎」)

 化膿性関節炎は急性単関節炎の最も重要な鑑別診断である。診断・治療が適切に行われた場合であっても、非可逆的な関節破壊が起こることがあり、注意深く疑ってかかること(High index of suspicion) が必要である。関節リウマチ・乾癬性関節炎など、関節疾患の存在は化膿性関節炎の危険因子であり、臨床的にしばしば悩ましい状況を作り出す。慢性関節炎の患者に「これまでとは異なる」単関節炎が生じた時には、十分に否定されるまで(until proven otherwise)化膿性関節炎として対応する。

 化膿性関節炎の診断
 「発熱+関節炎へのアプローチ」という本題には反するが、化膿性関節炎の患者がしばしば平熱で、白血球の上昇を示さないことには注意が必要である[4] 。

 <関節穿刺液の解釈>
 化膿性関節炎の診断の鍵は、罹患関節を穿刺・吸引して採取した関節液の塗抹顕微鏡検査および培養検査を速やかに施行することである。肩・膝関節などはアプローチが容易であるが、股関節では透視下での穿刺が必要である。正常の関節液は粘度が高く、細径の穿刺針で吸引できないが、化膿性関節炎では、集ぞくした白血球が産生するムチナーゼにより粘度が低下しており、細径の穿刺針でも吸引可能である。

 関節液中白血球数は、関節炎の原因が細菌感染症によるものかそれ以外かを鑑別するのに最も有用な単一の検査であるとされている。ある後ろ向きコホート研究において、関節液中白血球数が17,500/mm^3以上の場合に診断上の有用性が最大(感度 83%、特異度 67%、陽性尤度比 2.5、陰性尤度比 0.25)であった[5]。
 また、JAMAの"Rational clinical examination series"における文献の系統的レビューにおいては、関節液中白血球数が25,000以下、25,000以上、50,000以上、100,000以上のそれぞれで尤度比は0.32、2.9、7.7、28.0であった。しかし、同総説では、化膿性関節炎の診断的検査として関節液中白血球数が信頼できるとは結論づけず、本疾患が疑われる患者に対する塗抹・培養検査の結果が判明するまでの「有力な参考所見」として位置づけている[6]。

 結晶性関節炎は化膿性関節炎の鑑別診断として重要である。痛風(Gout)は、典型的には単関節炎発作を繰り返し、治療が奏功しない場合、次第に慢性の多発関節炎に移行する。腎機能が低下している高齢者では「発熱+多関節炎」として発症することもある。偽痛風も急性の単関節炎の原因となる。単純X線写真で軟骨表面の石灰化像を認めることがある。
なお、熟練した観察者であれば、痛風結晶をグラム染色で同定することも可能である(写真2)。


写真2 グラム染色で同定された尿酸結晶〔好中球に貪食されている〕
(聖路加国際病院 アレルギー・膠原病科 岸本暢将先生のご厚意による)

 次号では、細菌感染症による多発関節炎(続)、その他感染症による関節炎について述べる。

<References>

1.Solinger AM. Rheumatic manifestations of human immunodeficiency virus. Curr Rheumatol Rep. 2003 Jun;5(3):205-9.

2.Dennis G, Chitkara P. A case of human T lymphotropic virus type I-associated synovial swelling. Nat Clin Pract Rheumatol. 2007 Nov;3(11):675-80.

3.Raquel Cuchacovich Clinical Applications of the Polymerase Chain Reaction: An Update Infect Dis Clin N Am.. 20 (2006) 735-758.

4.Vincent GM, Amirault JD. Septic arthritis in the elderly. Clin Orthop Relat Res.1990 Feb;(251):241-5.

5.Li SF, Cassidy C, Chang C, et al. Diagnostic utility of laboratory tests in septic arthritis. Emerg Med J. 2007; 24:75-77.

6.Margaretten ME, Kohlwes J, Moore D, Bent S. Does this adult patient have septic arthritis? JAMA.. 2007 Apr 4;297(13):1478-88.

(つづく)


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