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KANSEN JOURNAL No.78 (2019. 12. 23)

(転送は歓迎します。内容の無断転載は禁止します)

【ミニレビュー】
先天性風疹症候群

  • あいち小児保健医療総合センター救急科/総合診療科
    樋口 徹

「僕たちにも、野球はできる!」

東京オリンピック(1964年)開催の翌年、沖縄で風疹が流行し、妊婦の25~30%が罹患したと推定された。妊娠初期4か月間に感染した妊婦は2000~2400人と考えられ、先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome; CRS)を発症した子どもたちが408人確認された[1]。これらの子どもたちのために、たった1学年だけの聾学校が開設された。高校生になった彼らの中には甲子園を目指す者もいたが、当時の日本学生野球憲章では聾学校の加盟は認められていなかった。しかし、生徒たちや周囲の人々はあきらめずに奮闘努力した(戸部良也『青春の記録 遥かなる甲子園――聴こえぬ球音に賭けた16人』より)。

CRSを発症すると、半数以上が難聴になり、半数弱が心疾患をきたし、1/4は目が不自由になる。その日常への影響は計り知れない。

風疹はワクチンで予防可能な感染症(vaccine preventable diseases; VPD)であり、それが原因になるCRSもVPDである。CRSの治療は対症療法のみである。強いて言うならば、ワクチンによる個人の風疹罹患の予防と、集団免疫の獲得による流行阻止こそが最大の治療である。2013年の風疹の流行はいったん収束したものの再度報告数が増加しており、2019年には複数のCRSも発生している。来年には再びの東京オリンピックを控え、より多くの外国人と交流が多くなるこの時期だからこそ、CRSの理解と対策を十分にしておきたい。

わが国における風疹の疫学

わが国ではかつて5年周期で風疹が大流行していたが、1995年に施行された改正予防接種法により生後12~90か月未満の男女が風疹ワクチンの予防接種対象となり、それ以降の数年間は落ち着いていた。しかし、2002年から局地的な流行が散発し、2004年には推計3.9万人の風疹罹患が報告された。そのため厚生労働省の研究班から緊急提言が出され[2]、予防接種の強化、風疹罹患妊娠女性への対応、さらに流行地域における疫学調査の強化がなされ、流行はいったん抑制された。ところがその後、海外で感染して帰国後発症する輸入例が散見されるようになり、2013年には1万4344人の風疹患者が発生した(図1)[3]。

図1 わが国のCRS罹患者数と風疹罹患者数
IASR, https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/8588-rubella-crs.html より改変

CRSは風疹から半年ほど遅れて流行し、2004年の風疹流行時には10例が報告された。2013年の風疹流行の中心は、定期接種の機会がなかった、あるいは移行措置から漏れ、結果的に低接種率に帰した20~40代の男性であった。彼らから妊娠出産する女性へ流行が拡大したため、最終的に45人のCRS患児が発生した[4]。それ以降、2015年から2018年にかけてはCRSの罹患者はなかったが、2018年から風疹患者の増加があり、2019年には7月までで3人のCRSの報告がある[5]。

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)は、この現状に鑑みて日本を渡航注意喚起のLevel 2 と設定し、風疹感受性の可能性がある妊婦の渡航を推奨していない。

現在の風疹の予防接種状況

風疹の予防接種の効果は、赤血球凝集抑制法(hemagglutination inhibition test; HI法)で評価することが推奨されている。予防効果があるとされるHI法≧16倍を、1回の接種でおおよそ90%程度の人が、5歳以上の2回接種では100%近くの人が達成できる[6]。現在の日本では、第1期として生後12~24か月未満の者に、第2期として5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間(4月1日から3月31日まで)の者に麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種されている。2018年度の第1期接種率は98.5%、第2期接種率は94.6%である[5]。

2019年1~7月に風疹に罹患した1973人のうち、予防接種歴がない(419人:21%)あるいは不明(1,374人:70%)の人が91%を占め、年代別では30~40代男性が最も多い(女性の3.9倍)。2018年の血清疫学データでは、HI法≦8倍の感受性者の多くは男性で、30代後半86%、40代79~86%、50代前半77%である[7]。このため厚生労働省は、2019年~2021年度末の約3年間、これまで風疹の定期接種を受ける機会がなかった昭和37(1962)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれの男性を対象に、風疹の抗体検査を行った上で、必要に応じて定期接種(A類)を行うことを発表した。この対象世代は、風疹ワクチン接種できず悔やまれることになぞらえて「無に、泣く(1962~1979)」と覚えるとよい[8]。

海外へ目を向けると、WHOは2020年末までに少なくとも5つの地域で麻疹と風疹を排除することを目標にしており、2016年12月には194か国のうちの152か国で風疹ワクチンが導入された。各国の接種率は13~99%と幅があるが、2000年には102か国・67万894人に上った風疹患者の報告は、2016年には165か国・2万2361人と97%低下している。ただ、いまだに風疹ワクチンを導入していない42か国では風疹の感染制御が遅れており、アフリカと東地中海の2地域では、風疹の排除や制御の目標がいまだに設定されていない[9]。

どの時点でCRSを疑うか?

流行が続く日本で、実際にCRSを診断するにはどうすればよいだろうか。最も重要なのはCRSを疑うことである。以下にCRSを疑うべき状況について述べる。CRSを疑う状況は、「妊婦が風疹感染疑いとなった場合」と「出生した児にCRSの症状を認めた場合」の2通りがある。

1.妊婦が風疹感染疑いとなった場合

1)風疹抗体価の測定と対応

現在、わが国では多くの妊婦健診で、初期に風疹抗体価の測定を行っている。検査項目は、感染後の変動や低抗体価の判定についてよく検討されたHI法が推奨されており、その抗体価で対応を変える必要がある(表1)[10]。抗体検査にはほかにELISA(enzyme-linked immunosorbent assay: 酵素結合免疫吸着検査)法があり、抗体価の読み替えが可能である[11]。

表1 妊婦の抗体価とその対応
抗体価
(HI法)
扱い 対応
≦16倍 風疹感受性者 同居家族へのワクチン接種を推奨
出生後早期にワクチン接種を推奨
風疹患者と接触があった場合は罹患疑いとして対応
32倍~128倍 抗体保有者 風疹に罹患した、または罹患が強く疑われる場合は罹患疑いとして対応
256倍≦ 罹患疑い HI法でのペア血清採取+風疹IgM(ELISA)を測定
 HI不変かつIgM陰性:終了
 HIが4倍以上の上昇またはIgM陽性
 :各地区相談窓口(2次施設)へ相談
先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル 日本周産期・新生児医学会編 改編

HI法≦16倍の場合は、感受性者として、特に風疹患者との接触をしないようにする必要がある。もしも風疹患者と接触があった場合は、罹患疑いとして対応する。また、同居家族への風疹ワクチン接種が推奨され、出産後には本人に対して早期の風疹ワクチン接種が推奨される。抗体価が32~128倍の場合は抗体保有者とされる。それでも100%風疹の罹患を予防できるわけではないので、症状から風疹の罹患が強く疑われる場合は罹患疑いとして対応する。抗体価が256倍以上の場合は、風疹罹患疑いとして、HI法でのペア血清採取と風疹IgM(ELISA法)を測定し、HI法で不変かつIgM陰性であればフォロー終了でよい。HI法で4倍以上の上昇またはIgM陽性であれば、各地区相談窓口(風疹り患妊婦二次相談施設)へ相談が必要である[10]。

2)妊婦が風疹に罹患した際の症状

風疹の潜伏期間は14~21日であり、典型的には初期症状として倦怠感とともにリンパ節が腫脹し、その後は発熱とともに発疹が現れる(図2)[12]。風疹の三徴は発熱、皮疹、リンパ節腫脹で、それぞれを認める割合は96.3%、85.2%、92.6%と高い。そのほかの症状としては、結膜炎(77.8%)、頭痛(63.0%)、咽頭痛(51.9%)、関節症状(25.9%)、咳嗽(14.8%)がある。皮疹は小さく、皮膚面よりやや隆起しており、淡紅色の皮疹が全身に広がるのが典型的[13]だが、麻疹で特徴的な発疹融合(37.0%)や色素沈着(18.5%)を呈することもある[14]。非特異的な症状が多いため、周囲の流行や海外渡航歴と合わせて考え、疑った場合は、地域管轄の保健所へ連絡の上、検査を進めるべきである。

図2 風疹罹患時の症状とその経過
Neonatology, Philadelphia, 1987, Lippincott.より改変

2.出生した児にCRSの症状を認めた場合

1)先天性風疹感染症について

妊婦が風疹ウイルスに感染し、その胎児が風疹ウイルスに感染した場合でも、すべての児が出生時に症状をきたすわけではない。症候の有無にかかわらず、児に感染した結果として起こるすべての事象を先天性風疹感染症(congenital rubella infection; CRI)という[10]。遅発性に起こる代表的な合併症としては、末梢肺動脈狭窄、精神遅滞、言語発達遅滞、糖尿病、免疫複合体病、低ガンマグロブリン血症がある。また、どの臓器障害も進行性に悪化する場合があり、特に合併症で最も多い聴力障害は、最大20%の児で4~6歳以降に診断されることがある[15]。頻度は高くないが内分泌系の異常も重要で、甲状腺ミクロソーム抗体やサイログロブリン抗体が23.3%で陽性になり、19.6%で甲状腺機能異常を認めるとの報告もある[16]。

2)CRSの症状

妊娠中の風疹感染は、流産、胎児死亡、あるいは先天奇形を起こすことがある。CRSと診断された児のうち、聴覚障害が60%程度で最多であり、心疾患(動脈管開存症、末梢性肺動脈狭窄など)が45%、小頭症が27%、白内障が25%と続く。教科書的な記述によると、低出生体重(<2500g)が50~85%と多い。そのほか、肝脾腫(19%)、紫斑(17%)、精神遅滞(13%)、髄膜脳炎(10%)、骨透亮性の亢進(7%)、網膜症(5%)といった症状がある[17]。

CRSで症状の出現に一番寄与するのは、母親に感染した時期である。妊娠第12週までに感染すると、先天的な障害は85%に発生し、妊娠第13~16週で50%、27週までならば25%となる[18]。

CRSの診断

妊婦が風疹感染疑いとなった場合、あるいは②出生した児にCRSの症状を認めた場合は、管轄の保健所へ連絡し、出生した児の血清または臍帯血の風疹特異的IgM、IgG、ウイルス分離同定(咽頭ぬぐい液、唾液、尿)、ウイルスPCR検査(咽頭ぬぐい液、唾液、尿)を施行する[10]。日本の「感染症法に基づく届出に必要な要件」では、臨床症状と、病原体診断または抗体検査の組み合わせで診断されることとなっている(表2)[19]。

表2
届出のために必要な臨床症状
(ア)CRS典型例:「(1)2項目以上」又は「(1)1項目と(2)1項目以上」
(イ)その他:「(1)若しくは(2)1項目以上」
(1)白内障又は先天性緑内障、先天性心疾患、難聴、色素性網膜症
(2)紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、X線透過性の骨病変、生後24時間以内に出現した黄疸
病原体診断又は抗体検査の方法
以下のいずれか1つを満たし、出生後の風しん感染を除外できるもの
検査方法 検査材料
分離・同定による病原体の検出 尿
咽頭ぬぐい液
唾液
PCR法による病原体の遺伝子の検出
IgM抗体の検出血清
赤血球凝集阻止抗体価(HI)が移行抗体の推移から予想される値を高く越えて持続(出生児のHI抗体価が、月あたり1/2の低下率で低下していない。)
感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 厚生労働省HP

IgM抗体の偽陽性は、リウマトイド因子、パルボウイルス特異的IgM抗体、非特異的抗体など様々な原因によって起こるので注意が必要である。また、IgMは、出生後6か月間は陽性になる[18]。

CRSと診断されたら?

1.合併症の検索

CRSに特異的な治療法はなく、合併症の正確な評価が大事である。出生後、風疹特異的IgMが高値の場合は、神経診察とともに、通常の眼科診察、心臓エコー、ABRなどの難聴検査、頭部MRIなどの画像検査を行う[10]。抗体やPCRなどの検査で陽性だが、診察や検査で症状がないCRSの場合も、その後に症状が進行したり、後から症状が発現したりする場合があるので、定期的な診察が重要である[20]。

2.感染管理

CRSが診断または推定された場合は、少なくとも1歳になるまで標準予防策+接触予防策が必要である。また、咳嗽や鼻汁などの飛沫曝露が予想されれば飛沫予防策も加える。隔離は、出生3か月以降に1か月間隔で採取した2つの検体(咽頭スワブと尿)で風疹PCRが陰性ならば解除となる[18]。検査は、診断時と同様に保健所を通じて実施する。先天性白内障や中枢神経合併症がある場合は、水晶体や脳脊髄液中にウイルスが認められ、その期間は1年以上に及ぶことが多いと報告されている[21]。

最後に

CRSは予防可能な疾患である。上記の基礎知識は、罹患してしまったときだけではなく、第5期定期接種を含めた予防接種を勧めるときの材料としても活用していただきたい。予防接種を打つべきである働き世代の男性が、子どもを授かったときはもちろんのことだが、例えば具合の悪い子どもを連れて病院を受診した際にも「風疹ワクチンを打っていますか?」と一言聞くだけで、無関心な人が関心を持ってくれるようになるかもしれない。悲しい歴史を繰り返さないために、自分たちの周りから予防の輪を拡げていきたい。


【References】
1)国立感染症研究所: 風疹流行および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第二版(2013年9月30日).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-top/2145-rubella-related/3980rubella-ra-2.html
2)国立感染症研究所: 風しん対策の強化について(含:厚生労働省通知および緊急提言)(2004年9月9日).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/2145-rubella-related/2174-rec200408.html
3)国立感染症研究所: 先天性風しん症候群(CRS)の報告(2019年11月28日現在).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/8588-rubella-crs.html
4)平原史樹: 産婦人科医からみた2012、2013年の風疹流行の課題. IASR. 2015; 36: 122-3.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2315-iasr/related-articles/related-articles-425/5773-dj4253.html
5)厚生労働省: 麻しん風しん予防接種の実施状況.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/190821-01.pdf
6)国立感染症研究所: 風疹含有ワクチン接種歴別の年齢/年齢群別風疹抗体保有状況、2017年―2017年度感染症流行予測調査より.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8283-rubella-yosoku-serumvac2017.html
7)国立感染症研究所 感染症疫学センター: 風疹流行に関する緊急情報:2019 年 9 月 11 日現在.
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2019/rubella190911.pdf
8)「無に、泣くな」スライド(北和也・案, 福井陽介・作), Facebookグループ「無に泣く」世代を笑顔に!
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2278512558942043&set=oa.456211564955202&type=3&theater&ifg=1
9)WHO: Fact Sheets, Rubella, 2019.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs367/en/
10)日本周産期・新生児医学会・編: 先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル, 2014.
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/CRS_manual.pdf
11)厚生労働省: 予防接種が推奨される風しん抗体価について.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/dl/140425_1.pdf
12)Neonatology, Philadelphia, 1987, Lippincott.
13)Kutsuna S, Hayakawa K: Images in clinical medicine. Rubella rash. N Engl J Med. 2013 Aug 8; 369(6): 558.
14)加藤博史他: 成人における風疹の臨床像についての検討. 感染症学雑誌. 2013; 87(5): 603-7.
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0870050603.pdf
15)Maldonado YA, Shetty AK: Rubella Virus. Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases, 5th ed, Elsevier, p.1142-8.
16)Clarke WL, Shaver KA, Bright GM, et al: Autoimmunity in congenital rubella syndrome. J Pediatr. 1984 Mar; 104(3): 370-3.
17)Reef SE, Plotkin S, Cordero JF, et al: Preparing for elimination of congenital Rubella syndrome (CRS): summary of a workshop on CRS elimination in the United States. Clin Infect Dis. 2000 Jul; 31(1): 85-95.
18)Kimberlin DW, Long SS, Brady MT, et al: Red Book 2018-2021, American Academy of Pediatrics, 2018.
19)厚生労働省: 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について, 先天性風疹症候群.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html
20)Sever JL, South MA, Shaver KA: Delayed manifestations of congenital rubella. Rev Infect Dis. 1985 Mar-Apr; 7 Suppl 1: S164-9.
21)Shewmon DA, Cherry JD, Kirby SE: Shedding of rubella virus in a 4 1/2-year-old boy with congenital rubella. Pediatr Infect Dis. 1982 Sep-Oct; 1(5): 342-3.