KANSEN Journal No.65(2018.10.15)
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東京オリンピックと感染症(第2回)

VPD(Vaccine Preventable Disease:ワクチンで予防可能な疾患)


国立国際医療研究センター国際感染症センター
忽那賢志

 


 

 

前回は主にルー大柴とマスギャザリングとの関係について述べた。第2回となる今回は、東京オリンピック・パラリンピックで特に注意すべき感染症について述べる。 


麻疹ウイルスの国内持ち込みに要警戒!

まずは麻疹・風疹・おたふく・水痘(MMRV)について概説したい。「おいおい、今さら麻疹だの風疹だの、知ってるっつーの!」と思われる読者もいらっしゃるだろうが、このMMRVはわれわれが今から対策すれば流行を防ぐことができるという意味で極めて重要なのであるからして、いま一度復習されたい。

MMRVの中で最も警戒しなければならないのは、なんと言っても麻疹である。麻疹は基本再生産数(感受性者の集団で、1人の患者が平均何人に感染させるかを表す数字)が12〜18と感染性が極めて高い感染症である。どれくらい高いかというと、例えば2015年に韓国でアウトブレイクした中東呼吸器症候群(MERS)の基本再生産数は0.69である。ぶっちゃけ、ドラゴンボールで言えばサイバイマンとベジータくらいの差があると言ってよいだろう(なお、致死率はMERSの方が圧倒的に高い)。

そんな感染性の高い麻疹であるが、多くの先人たちの努力の甲斐もあり、日本国内では排除状態となっている。「排除状態って、あーた、 2018年3月に沖縄で流行したばっかでしょーがよ」と思われるかもしれないが、排除状態というのは日本国内に由来する麻疹ウイルスによる感染症が発生していないという意味であり、国内で流行しないという意味ではないのである。国内もさることながら、現在、麻疹はヨーロッパで猛威を振るっている[1,2]。これまで本邦での麻疹事例は東南アジアから持ち込まれることが多かったが、ヨーロッパから持ち込まれる可能性も考慮しておかなければならない。


MMRVを広げないために、ワクチン打とうぜ!

そもそも、年間4000万人以上が出入国している現状で麻疹の侵入をパーペキに防ぐことなんて無理と考えておいた方がよい。重要なのは、麻疹が国内で発生した場合も、そこから広げないことである。麻疹を広げないためにはどうすればよいか……。

 

そりゃ、ワクチンでしょーがよ!!

 

国立感染症研究所によると、2016年の麻疹の予防接種率は第1期97.2%、第2期93.1%であったそうである[3]。そんだけ打ってたらいいような気がするかもしれないが、まだまだ不十分なのである。


図 2018年の沖縄県の麻疹症例のワクチン接種状況(文献4より筆者作成)


[4]は、2018年3月から5月にかけての沖縄での麻疹アウトブレイクの際に報告された症例のワクチン接種状況である。見てお分かりの通り、症例の大半のワクチン接種歴が「不明」「無」「1回」のいずれかなのである。麻疹の予防にワクチン接種がいかに有用か、あらためて思い知らされるデータである。

ただ、流行しているときは「ワクチン打って予防しよう!」とかメディアも盛り上がっちゃうんだが、喉元過ぎれば熱さを忘れるということで、今ではすっかりボクシング協会だの裏口入学だのの話題でもちきりである。しかし、本当にワクチンを接種して接種率を高めなければならないのは、流行していない今なのである。ルー大柴的に言えば「ナウ・ワクチン・トゥギャザーしようぜ!」なのである。果たして私はルー大柴をどこまで引っ張るのであろうか。自分でも理解できないくらいのルー登板過多なのである。

麻疹だけでなく、風疹、おたふく、水痘も同様である。風疹は2013〜2014年に関東を中心に1万7000人を超える患者数が報告され、45名の先天性風疹症候群が報告された[5]。そして2018年9月現在、再び関東で風疹が流行しようとしている。30〜40歳代の男性に多いというのも前回の流行と同じである。われわれは結局、前回の流行から何を学んだのか……、無力感にさいなまれる医療従事者も多いことだろう。そんなときは、5年前にわれわれ有志が作ったチープな風疹啓発動画(完全に黒歴史)を観て元気を出してほしい。

当時は林修先生の「今でしょ!」が流行ってたんだなあ。ま、もはや「今でしょ」って言ってる人はまったく見かけないわけだが、あえて言おうじゃないか。ワクチンを打つのは今でしょ!と。


【References】

1)Currie J, Davies L, McCarthy J, et al: Measles outbreak linked to European B3 outbreaks, Wales, United Kingdom, 2017. Euro Surveill. 2017 Oct; 22(42).
2)Filia A, Bella A, Del Manso M, et al: Ongoing outbreak with well over 4,000 measles cases in Italy from January to end August 2017―what is making elimination so difficult? Euro Surveill. 2017 Sep 14; 22(37).
3)国立感染症研究所: 麻疹 2018年2月現在. IASR. 2018 Apr; 39: 49-51.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrtpc/7959-458t.html
4)沖縄県保健医療部衛生環境研究所: 沖縄県内の麻しん患者発生報告一覧(平成30年9月18日更新). http://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/kikaku/kansenjouhou/
documents/list_180611.pdf

5)Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Nationwide rubella epidemic―Japan, 2013. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2013 Jun 14; 62(23): 457-62.



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