KANSEN Journal No.63(2018.2.20)
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破傷風――[2]診断と治療


神戸大学病院感染症内科
海老沢 馨、 大路 剛

 

 


 

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破傷風の診断

破傷風の診断は、原則的に臨床症状で行う。創部の培養についても感染症の教科書Mandellでは勧められていない。その理由としては、@どれだけ注意しても嫌気性培養は偽陰性となりうること、A培養陽性でも毒素産生株かどうか分からないこと、B培養陽性でも患者が免疫獲得していれば疾患に関与していない可能性が高いこと、を挙げている。

破傷風患者の中には外傷がない、もしくはごく軽微な傷のみであった症例が20-30%程度存在する[1][2]。鶏に額をつつかれたことで破傷風に感染した症例もあり[2]、傷の有無や大小で診断することは困難である。

また、後述するワクチンによって予防できる疾患であるため、小児期および成人後のワクチン接種歴の確認が必要である。日本の場合、破傷風トキソイドワクチンの定期接種化が始まったのが1968年(昭和43年)からであり、それ以前に生まれた方々の多くは小児期に定期接種を受けていない可能性が高く、罹患リスクが高いと考えるべきである。


破傷風の治療

破傷風治療の基本的な考え方は、ICUにおける全身管理に加えて、@既に中枢神経に到達した毒素の作用を抑えること、A血中の非結合毒素を中和すること、B新たな毒素産生を防ぐこと、の3つが重要である。ここでは病期に応じた治療のポイントを示す。

 1.診断と安定化:来院から初期1時間

急性期には、まず気道の評価と管理を行う。必要に応じてベンゾジアゼピンと筋弛緩薬を使用して気管挿管を行う。痙攣や筋硬直が強い場合は、ベンゾジアゼピンの投与を行う。また、光刺激などを避けるため、ICU内でできるだけ静かで暗い場所に入院させる。

処方例
挿管時に開口障害が強いとき
ベクロニウム 0.1mg/kg

痙攣、筋硬直の管理
ジアゼパム 1回5mg もしくは ロラゼパム 1回2mg

 2.初期対応期:初期24時間

抗破傷風ヒト免疫グロブリン、破傷風トキソイド、抗菌薬の投与、感染巣があればデブリードマンを行う。全身管理として気管切開、中心静脈カテーテル挿入、胃管挿入を行う。

 1)抗破傷風ヒト免疫グロブリン
破傷風の治療として、非結合毒素を中和するために抗破傷風ヒト免疫グロブリン(テタノブリン®)を投与する。筋肉注射用製剤と静脈注射用製剤があり、両者の臨床的な効果の差を調べた研究はないが、血清抗毒素価に関しては静脈注射のほうが早期に上昇し、4日目以降はほぼ同じ推移で低下していくことが分かっている()[2]。どうしても抗破傷風ヒト免疫グロブリンが手に入らない場合、通常の静注用免疫グロブリン製剤(200〜400mg/kg)でも代用可能である。

処方例
テタノブリン 筋注(もしくは静注)

※適切な投与量については議論がある。少量投与でも効果は変わらないという報告[3][4]もあるため、WHOやCDCは500単位で十分としている。一方で、いくつかの教科書や専門家によっては依然高用量(3000〜6000単位)での投与が勧められている。

 

図 破傷風免疫ヒトグロブリン(TIG)注射後の血清抗毒素価
(海老沢 功: 破傷風. 第2版. 日本医事新報社. 2005.)

 

 2)破傷風トキソイド
破傷風に対する免疫はワクチン接種のみで得られ、発症しても特異抗体は産生されない。したがって、破傷風トキソイドによる能動免疫の獲得が必要となる。診断時に初回投与を行い、回復期にかけて初回投与から2週間後に2回目、2回目の投与から4週間後に3回目の投与を行う。

 3)抗菌薬(ペニシリン、メトロニダゾール)
破傷風の主な病態は毒素による神経障害であるため、抗菌薬の果たす役割は大きくはないが、創部のデブリードマンとともに標準治療として勧められている。メトロニダゾールもしくはペニシリンを7〜10日間投与する。両者の比較に関しては、死亡率、入院期間などにおいてメトロニダゾールのほうが勝っていたが[5]、これは抗菌活性や耐性の問題ではなく、ペニシリンがGABAAの拮抗薬としての側面を持つことによると考えられている。

処方例
メトロニダゾール 1回500mg 1日4回 7〜10日間
または
ペニシリンG 1回200〜400万単位 1日4〜6回 7〜10日間

 4)マグネシウム大量投与療法
マグネシウム大量投与療法を行うことで、挿管の必要性を下げることはできないものの、筋硬直や痙攣に対する薬剤使用量の減量や、不整脈の頻度が減少したことが報告されている[6]。マグネシウム40mg/kgを最初の30分で投与し、その後は体重に応じて45kg以上の場合は2g/hr、45kg未満の場合は1.5g/hrで合計7日間投与する。

3.中間対応期:2-3週間

交感神経の活動亢進を抑えるため、αβブロッカーやモルヒネを使用する。βブロッカー単独(プロプラノロール)の投与は突然死の報告があり勧められない[7]。

処方例
ラベタロール 0.25-1mg/min 血圧コントロールの必要性に応じて
モルヒネ 0.5-1mg/kg/hr 持続投与

4.回復期:2-6週間

リハビリテーションと2回目の破傷風トキソイドの投与を行う。2回目の投与から4週間後に3回目の破傷風トキソイドの投与を行う。

今回は破傷風の診断と治療について述べてきたが、原則として破傷風は予防接種で防ぐべき疾患である。次回は、ワクチン開発の経緯と接種の実際について述べる。


【References】

1)Tetanus surveillance―United States, 2001-2008. MMWR Morbidity and mortality weekly report 2011; 60: 365-9.
2)海老沢 功: 破傷風. 第2版. 日本医事新報社. 2005.
3)Blake PA, Feldman RA, Buchanan TM, et al: Serologic therapy of tetanus in the United States, 1965-1971. JAMA. 1976 Jan 5; 235(1): 42-4.
4)Brauner JS, Vieira SR, Bleck TP: Changes in severe accidental tetanus mortality in the ICU during two decades in Brazil. Intensive Care Med. 2002 Jul; 28(7): 930-5.
5)Ahmadsyah I, Salim A : Treatment of tetanus: an open study to compare the efficacy of procaine penicillin and metronidazole. Br Med J (Clin Res Ed). 1985 Sep 7; 291(6496): 648-50.
6)Thwaites CL, Yen LM, Loan HT, et al: Magnesium sulphate for treatment of severe tetanus: a randomised controlled trial. Lancet. 2006 Oct 21; 368(9545): 1436-43.
7)Buchanan N, Smit L, Cane RD, et al: Sympathetic overactivity in tetanus: fatality associated with propranolol. Br Med J. 1978 Jul 22; 2(6132): 254-5.

 



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