KANSEN Journal No.63(2018.2.13)
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破傷風―[1]歴史と臨床症状


神戸大学病院感染症内科
海老沢 馨、 大路 剛

 

 


 

 



「破傷風は予防注射の対象とすべき疾患で、治療の対象とすべきものではない」
「この傷は破傷風になる、あるいはならないという判断はいかなる名医でもできない」
――海老沢 功(『破傷風』〔日本医事新報社、1988年〕より)

 

 

破傷風とは

破傷風とは、破傷風菌(Clostridium tetani)(図1)の産生する毒素により、神経障害、強直性痙攣などをきたす感染症である。その数はワクチンの定期接種化、社会衛生環境の整備などに伴って激減し、死亡率も麻酔集中治療管理の普及によって劇的に改善した。一方で、世界ではいまだに年間5万人以上の死者が出ており、うち約2万人は新生児破傷風である[ 1]。本邦でも年間約50〜100例程度の報告があり、決して無視することのできない疾患の一つである。ちなみに、感染症法における第5類感染症に該当するので、診断した医師は7日間以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。




図1 破傷風菌の電子顕微鏡所見(×7000)(写真提供:海老沢 功氏)


 

破傷風菌発見の歴史

疫学や臨床の話を始める前に、まずは歴史の話をしたい。最古の破傷風の症例と考えられる記録は、紀元前1500年のエジプトにさかのぼる[2]。古代ギリシャではヒポクラテスがその症状の詳細を記載し、創部の消毒の必要性を説き、発症した場合には挿管と栄養のための鼻カニューレの挿入について言及しているというから驚きである[3]。

疾患自体の認識はされていたものの、その原因やメカニズムが解明されるまでには長い時間がかかった。破傷風が土の中に存在する微生物が原因で引き起こされることを立証したのはA. Nicolaier(1862-1942)である[4]。彼は様々な場所から採取した土をネズミの皮下に植え込んで、破傷風の症状が出現することを確認した(図2)。死亡したマウスから再度植え込んだ土を採取し、別のマウスに植え込むとやはり同様の症状が見られたが、その土を190℃で1時間加熱した後に植え込んでも破傷風の症状は起きなかった。このことから、破傷風は土の中に存在する何らかの微生物が原因となっている“感染症”であると結論付けている。しかし、Nicholaierは破傷風菌の分離培養を成功させることはできなかった。

この破傷風菌の純培養に成功したのが、われらが北里柴三郎(1853-1931)である[5]。多数の細菌が存在している土から破傷風菌を単独で取り出すため、北里らは培地を80℃で45-60分加熱した。これで死滅してしまう破傷風菌もいるので、運も味方したというのが現実だった。持っている人は違うということだろう。そして、最も重要だったのは嫌気性培養である。当時、空気に触れると死滅してしまう細菌がいるということは既に分かっていたが、そもそも破傷風菌が嫌気性菌なのではないかという発想がなければ純培養は成功し得なかった。北里がどうやってその考えに至ったのかは不明であるが、破傷風菌の純培養の成功の裏には、その発想とちょっとした運があった。ちなみに、世界で初めて嫌気性菌の存在を発表したのはL. Pasteur(1822-1895)で、1861年のことである。このとき発見されたのが現在Clostridium butyricumと呼ばれる細菌で、整腸剤の一つであるミヤBM®の主な成分となっているというのはまた別の話。

 

図2 マウスの破傷風(写真提供:海老沢 功氏)
外傷側に脊椎が彎曲している。

 

破傷風の臨床症状と経過

破傷風は、破傷風毒素による中毒性疾患である。破傷風(tetanus)という名前は、もともとギリシャ語のtetanos(=突っ張る、ピンと張る)という言葉から来ている。筋硬直、筋痙攣、自律神経障害の3徴が特徴とされている。潜伏期間は1日から数か月と言われているが、ほとんどの症例が外傷受傷後3日から3週間の間に発症する。7日以内に発症した場合は重症となりやすく、10日目以降に発症した場合は軽度の症状で終わることが多い[6]。臨床症状は以下の4つの病期に分かれる。

1.第1期(前駆期)

首筋の張りや味覚障害、口唇のしびれ、咀嚼時の咬筋の疲労感、受傷側の四肢の突っ張りなどが見られる。

2.第2期(onset time)

開口障害(lock jaw)、嚥下障害、発語障害などが加わる。開口障害は初期には軽度だが、次第に増強する。四肢や頸部・胸部の筋肉の部分的な痙攣が見られることがある。この時期が予後の指標として最も重要な時期である。

3.第3期(痙攣持続期間)

全身痙攣、後弓反張、呼吸困難、膀胱直腸障害、発熱、発汗があり、生命が最も危険に曝される期間である(図3)[7]。筋硬直により四肢の関節は屈曲困難で、頸部も前屈不能になる。腱反射は一般的に亢進し、バビンスキーなどの病的反射も出現する。高度の痙攣により脊椎の圧迫骨折をきたすこともある。

 

図3 後弓反張を示す破傷風患者――クリミア戦争中の症例スケッチ
(Bell C: Essays on the Anatomy and Physiology of Expression. 2nd ed. John Murray. 1824.)

 

4.第4期(回復期)

全身痙攣はなくなるが、筋硬直や腱反射亢進といった症状は残存する。四肢の筋萎縮が見られ、検査値としてCKが上昇するのも納得がいく(図4)。

 

図4 破傷風患者の横紋筋繊維の病理像(写真提供:海老沢 功氏)
著明な萎縮が見られる。

 

破傷風の病型

破傷風は、病型として以下の4つに分類される。

1.全身型(generalized tetanus)

最も一般的なのが全身性の破傷風である。典型的には痙笑(risus sardonicus)と開口障害(lock jaw)で発症し、全身性の筋痙攣をきたす。意識障害はなく、発作時には強い痛みを伴う。筋痙攣は感覚刺激によって誘発されるため、静かで暗い場所での安静が必要である。

2.局所型(local tetanus)

破傷風菌の侵入部位周辺に限局した筋硬直が見られる。症状は軽微で、自然に軽快することもある。一方で、毒素が中枢神経に進展すると全身型へ移行することもあり、全身型破傷風の前駆症状としての注意も必要である。

3.脳神経障害型破傷風(cephalic tetanus)

経過中に脳神経の弛緩性もしくは痙性麻痺をきたす。最も頻度が高いのは顔面神経麻痺をきたすものである。患側の筋収縮が強く、反対側の弛緩性麻痺のように見えることもある。眼瞼閉鎖不全や動眼神経麻痺による複視といった症状が出ることもある。かつては予後不良とされていたが、軽症例の報告も多く見られるようになっており、一概には言えない。

4.新生児破傷風(neonatal tetanus)図5

主に臍帯切断時の汚染が原因で発症する。出生から1週間程度(3〜24日後)に発症することが多く、活気がないなどの全身衰弱に始まり、遅れて筋硬直や痙攣が起こる。成人症例に比べて進行が速く、数時間で症状が進展する。報告にもよるが、死亡率は90%に達し、生き延びたとしても発達障害が残ることがほとんどである[7]。本邦でも2008年に不潔な臍帯切断が原因と考えられる新生児破傷風の症例が報告されている[8]。

図5 新生児破傷風患者――A. Schweitzer病院にて(写真提供:海老沢 功氏)
口が開かないため泡を吹き、鼻腔を広げている。

 

次回は、破傷風の診断と治療について述べる。

 

 

【References】

1)Kyu HH, Mumford JE, Stanaway JD, et al: Mortality from tetanus between 1990 and 2015: findings from the global burden of disease study 2015. BMC Public Health. 2017 Feb 8; 17(1): 179.
2)Nunn JF, Tapp E: Tropical diseases in ancient Egypt. Trans R Soc Trop Med Hyg. 2000 Mar-Apr; 94(2): 147-53.
3)桜井 信: ヒポクラテスと破傷風(研究余話). The Journal of Chiba Medical Society. 1971; 47: 155-6.
4)A N. Uber infekitosen Tetanus. Deut Med Wochenschr 1884; 10: 842-4.
5)S K. Uber den Tetanusbacillus. Z f Hygiene 1889; 7: 225-33.
6)Armitage P, Clifford R: Prognosis in tetanus: Use of data from therapeutic trials. J Infect Dis. 1978 Jul; 138(1): 1-8.
7)Bell C: Essays on the Anatomy and Physiology of Expression. 2nd ed. John Murray. 1824.
8)Anlar B, Yalaz K, Dizmen R: Long-term prognosis after neonatal tetanus. Dev Med Child Neurol. 1989 Feb; 31(1): 76-80.
9)国立感染症研究所: 新生児破傷風の1例. IASR. 2008 Feb ; 29: 50-51. https://idsc.niid.go.jp/iasr/29/336/kj3363.html

 



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