KANSEN Journal No.60(2017.6.23)
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【 ミニレビュー:トキソプラズマ症A
トキソプラズマ脳炎


東京都立墨東病院 感染症科
鷲野巧弥

三井記念病院 感染制御部
相野田祐介

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科
中村(内山)ふくみ

 


 

3分割で配信しています. 第1号

はじめに

 今回はトキソプラズマ脳炎について概説する。トキソプラズマ原虫に感染してもほとんどが無症候で慢性不顕性感染へ移行することは前回述べた通りである。この時期にトキソプラズマ原虫は宿主の免疫応答により増殖が抑えられ、脳・眼・骨格筋・肺で緩増虫体を含むシストを形成して存在する。宿主の免疫能、特に細胞性免疫が低下すると、トキソプラズマ原虫の増殖が再活性化され脳炎や肺炎、網脈絡膜炎などをきたす。

 トキソプラズマ脳炎は、AIDS患者のうちCD4陽性Tリンパ球数(CD4数)が100/μL以下で発症し、表1[1]に示すAIDS指標疾患の一つとなっている。AIDS患者以外でも、同種骨髄幹細胞移植、自家造血幹細胞移植、TNF-α阻害薬投与患者などで報告されている[2]。厚生労働省「平成27年エイズ発生動向年報」[3]によると、国内におけるAIDS患者のトキソプラズマ脳炎は2015年末までで113人とされているが、これはAIDS発生届の際に記載されたものだけであり、実際には届けられていない症例が多数存在すると考えられる。以下、主にAIDS患者におけるトキソプラズマ脳炎について述べる。

 

表1 AIDS指標疾患

A.真菌症 1.カンジタ症(食道、気管、気管支、肺)
2.クリプトコッカス症(肺以外)
3.コクシジオイデス症[ 1]
4.ヒストプラズマ症 [1]
5.ニューモシスチス肺炎
B.原虫感染症 6.トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後)
7.クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
8.イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症 9.化膿性細菌感染症[2]
10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11.活動性結核(肺結核又は肺外結核) [1][3]
12.非結核性抗酸菌症[1]
D.ウイルス感染症 13.サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
14.単純ヘルペスウイルス感染症[4]
15.進行性多巣性白質脳症
E.腫 瘍 16.カポジ肉腫
17.原発性脳リンパ腫
18.非ホジキンリンパ腫(a.大細胞型・免疫芽球型、b. Burkitt 型)
19.浸潤性子宮頸癌[3]
F.その他 20.反復性肺炎
21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
22.HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎)
23.HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
1) a:全身に播種したもの、b:肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの

2) 13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの
 a:敗血症、b:肺炎、c:髄膜炎、d:骨関節炎、e:中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍

3) C11活動性結核のうち肺結核、およびE19浸潤性子宮頸癌については、HIVによる免疫不全を示唆する症状又は所見がみられる場合に限る

4) a:1ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
  b: 生後1ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
(H28年度厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業 HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班:抗HIV治療ガイドライン(2017年3月).http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2017.pdf



症 状

 トキソプラズマ脳炎の主な症状は、頭痛(55%)、意識障害(52%)、発熱(47%)である[4]。痙攣は30%までの症例に認められる[5]。片麻痺、脳神経症状、運動失調、感覚障害などの神経巣症状は69%の症例に見られ[4]、脳卒中様の経過で発症することもある[6]。通常は亜急性の臨床経過をたどるが、経過には数日から1か月まで幅がある。



検 査

1.血清抗体検査

 トキソプラズマ脳炎患者では、90%で血清の抗トキソプラズマIgG抗体が陽性であるとの報告がある[7]。一方で、日本国内における複数施設の検討では、トキソプラズマ脳炎患者におけるIgG陽性者は55%程度のみであったとの報告もある[8]。後者の研究は対象症例が11例であり、症例数によっては陽性率も変わってくるかもしれないが、いずれにせよIgG陰性であってもトキソプラズマ脳炎を否定することはできない[9]。

 抗トキソプラズマIgG抗体陽性であっても、免疫健常者であれば問題となる再活性化を認めることは極めてまれである。ただし、予防が行われていないCD4陽性細胞数が100/mm3以下のAIDS患者では約30%が再活性化するという報告もある[10]。

 抗体価の高低は診断に有用ではなく、血清抗体は診断の補助として参考程度にのみ用いるべきである[9]。

2.脳脊髄液検査

 髄液蛋白の上昇と単核球優位の細胞数上昇を認めることもあるが、いずれも非特異的な所見である[11]。一方、髄液PCR検査は、感度にばらつきがある(33〜83%)が、特異度は高く(96〜100%)、陽性であれば診断に有用である[12〜14]。

3.画像検査

 頭部造影MRI検査や頭部造影CT検査が用いられる。多発病変の検出にはMRIがCTより感度が高く、MRI検査が推奨されている[15]。大きさ1〜2cm程度の単発または多発の腫瘤を呈し、内部は低吸収、低信号で、周囲にリング状の造影効果を持つ。皮髄境界や白質、基底核に位置し、周囲に浮腫やmass effectを伴う。これらは脳原発悪性リンパ腫(primary CNS lymphoma;PCNSL) でも認められる所見であり、画像だけでの確定診断はできない[16]。


鑑 別

  トキソプラズマ脳炎は、AIDS患者の中枢神経病変のうち約30%を占める[17]。鑑別として、前述のPCNSL、進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy;PML)、サイトメガロウイルス脳炎、クリプトコッカス、アスペルギルス、ノカルジア、細菌性膿瘍、結核腫などが挙げられる。画像上はPCNSLとの鑑別が難しく、髄液EBウイルスPCR検査やタリウムシンチグラフィーなどが、脳生検が困難なケースでは考慮されることもある[18]。これらの検査が陽性の場合、トキソプラズマ脳炎の可能性は下がるが、完全な否定は困難であり、患者の病状にもよるが後述の診断的治療を行うこともある。

 

診 断

 背景、経過、画像所見からトキソプラズマ脳炎が疑われる場合は、診断的治療を行う。この場合、治療開始1週間以内にほとんどの症例で臨床症状の改善が見られる。また、2週間以内に画像所見の改善も認められる[6]。臨床症状や画像所見が改善しない場合は、PCNSLを念頭に置き、脳生検を検討する。ステロイド治療は PCNSLの病変を縮小させてしまい、結果として診断を難しくすることがあるため脳浮腫の治療としてのステロイド治療は可能な限り避ける。脳生検では、組織学的に壊死性膿瘍の所見を認める。

 

治 療

 治療は、初期治療、維持治療(二次予防)、一次予防に分けられる。代表的な治療レジメンを表2[6]に示す。

 

表2 トキソプラズマ脳症炎の治療

  推奨レジメン 代替レジメン
初期治療 ピリメサミン
初日 200mg/日 分1
2日目以降 50-75mg/日 分1
ピリメサミン 
初日 200mg/日 分1
2日目以降 50-75mg/日 分1
ロイコボリン 
10-25mg/日 分1
ロイコボリン
10-25mg/日 分1
スルファジアジン 
4,000-6,000mg/日 分4
クリンダマイシン
2,400mg/日 分4
(内服 or 点滴)
維持治療
(二次予防)
ピリメサミン
25-50mg/日 分1
ピリメサミン
25-50mg/日 分1
ロイコボリン
10-25mg/日 分1
ロイコボリン
10-25mg/日 分1
スルファジアジン
2,000-4,000mg/日 分4
クリンダマイシン
1,800mg/日 分3
一次予防 ST合剤 2錠 分1 アトバコン 1500mg/日 分 1
+/- ピリメサミン 25mg/日 分1
+/- ロイコボリン 10mg/日 分1
(Philip-Ephraim EE,Charidimou A,Williams E,et al:Stroke-Like Presentation of Cerebral Toxoplasmosis:Two HIV-Infected Cases.Cerebrovasc Dis Extra.2015 Mar 20;5(1):28-30.)

 

 初期治療を少なくとも6週間継続した後、維持治療に移行する。維持治療はCD4数>200/μLが6か月以上続くまで継続する。トキソプラズマ脳炎を発症していない患者で、CD4数<100μLかつ血清IgG抗体陽性例では一次予防を行う。一次予防は、CD4数>200/μLが3か月以上続いた時点で中止してよい[6]。

 次回(最終回)は、先天性トキソプラズマ症について述べる。

 

まとめ

・トキソプラズマ脳炎は、AIDS患者をはじめとした細胞性免疫不全患者に発症する。

・AIDS患者の頭蓋内腫瘤性病変ではPCNSLとの鑑別が難しく、しばしば診断的治療が行われる。

・経過によっては、脳生検を検討する必要がある。


【References】

1)H28年度厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業 HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班:抗HIV治療ガイドライン(2017年3月).
http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2017.pdf
2)Schmidt M,Sonneville R,Schnell D,et al:Clinical features and outcomes in patients with disseminated toxoplasmosis admitted to intensive care:a multicenter study.Clin Infect Dis.2013 Dec;57(11):1535-41.
3)厚生労働省エイズ動向委員会:平成27年エイズ発生動向年報.
http://api-net.jfap.or.jp/status/2015/15nenpo/15nenpo_menu.html
4)Porter SB,Sande MA:Toxoplasmosis of the central nervous system in the acquired immunodeficiency syndrome.N Engl J Med.1992 Dec 3;327(23):1643-8.
5)Renold C,Sugar A,Chave JP,et al:Toxoplasma encephalitis in patients with the acquired immunodeficiency syndrome.Medicine(Baltimore).1992 Jul;71(4):224-39.
6)Philip-Ephraim EE,Charidimou A,Williams E,et al:Stroke-Like Presentation of Cerebral Toxoplasmosis:Two HIV-Infected Cases.Cerebrovasc Dis Extra.2015 Mar 20;5(1):28-30.
7)Luft BJ,Hafner R,Korzun AH,et al:Toxoplasmic encephalitis in patients with the acquired immunodeficiency syndrome.Members of the ACTG 077p/ANRS 009 Study Team.N Engl J Med.1993 Sep 30;329(14):995-1000.
8)Sakamoto N,Maeda T,Mikita K,et al:Clinical presentation and diagnosis of toxoplasmic encephalitis in Japan.Parasitol Int.2014 Oct;63(5):701-4.
9)Guidelines for prevention and treatment of opportunistic infections in HIV-infected adults and adolescents:recommendations from CDC,the National Institutes of Health,and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of America.
https://aidsinfo.nih.gov/contentfiles/lvguidelines/adult_oi.pdf
10)Grant IH,Gold JW,Rosenblum M,et al:Toxoplasma gondii serology in HIV-infected patients:the development of central nervous system toxoplasmosis in AIDS.AIDS.1990 Jun;4(6):519-21.
11)Bennett JE,Dolin R,Blaser MJ:Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases,8th edition,Saunders,2014,p.3122-53.
12)Alfonso Y,Fraga J,Fonseca C,et al:Molecular diagnosis of Toxoplasma gondii infection in cerebrospinal fluid from AIDS patients.Cerebrospinal Fluid Res.2009 Mar 6;6:2.
13)Nogui FL,Mattas S,Turcato Júnior G,et al:Neurotoxoplasmosis diagnosis for HIV-1 patients by real-time PCR of cerebrospinal fluid.Braz J Infect Dis.2009 Feb;13(1):18-23.
14)Hirsch HH,Meylan PR,Zimmerli W,et al:HIV-1-infected patients with focal neurologic signs:diagnostic role of PCR for Toxoplasma gondii,Epstein-Barr virus,and JC virus.Clin Microbiol Infect.1998;4(10):577-584.
15)Levy RM,Mills CM,Posin JP,et al:The efficacy and clinical impact of brain imaging in neurologically symptomatic AIDS patients:a prospective CT/MRI study.J Acquir Immune Defic Syndr.1990;3(5):461-71.
16)Antinori A,Ammassari A,De Luca A,et al:Diagnosis of AIDS-related focal brain lesions:a decision-making analysis based on clinical and neuroradiologic characteristics combined with polymerase chain reaction assays in CSF.Neurology.1997 Mar;48(3):687-94.
17)Diaconu IA,Stratan LM,Nichita L,et al:Diagnosing HIV-associated cerebral diseases―the importance of Neuropathology in understanding HIV.Rom J Morphol Embryol.2016;57(2 Suppl):745-50.
18)Skiest DJ,Erdman W,Chang WE,et al:SPECT thallium―201 combined with Toxoplasma serology for the presumptive diagnosis of focal central nervous system mass lesions in patients with AIDS.J Infect.2000 May;40(3):274-81.



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