KANSEN Journal No.59(2017.3.15)
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【 ミニレビュー】
原発性免疫不全症 update


あいち小児保健医療総合センター 総合診療科
伊藤健太

 


 

 

はじめに

 感染症好きを公言してはばからない、KANSEN JOURNALの読者の皆様、お待たせしました。原発性免疫不全症 updateです。え、待ってない? 待ってないですか、原発性免疫不全症(primary immunodeficiency;PID)……。

 PIDに関して、皆様はどのような印象をお持ちでしょうか? 私は小児科医ですからPID患者に接する機会があります。でも、多くはないです。内科医、感染症医の皆様はいかがですか? 国家試験で何やらGeorgeやらAldrichやら人の名前が付いた疾患が目の前を通り過ぎただけという方もいるかもしれません。「分類不能型免疫不全(CVID)とか、家族性地中海熱(FMF)を診断したぜ!」という発熱診療大好き総合診療医もいらっしゃるでしょう。さらには小児科でフォローしていた患者の成人移行を頼まれて困っているという先生も……。

 ところで今、PIDにはどれくらいの数の疾患が含まれると思いますか? 実に単一遺伝子の先天的異常だけで300程度が知られています(この数字もどんどん増えてきています)[1]。背景とする病態も感染症、悪性疾患、アレルギー、自己免疫疾患、自己炎症と非常に幅広いのです。本稿では、まさに日進月歩のPIDの今をできる限り体系的にまとめました。読者の皆様にとって明日の診療の一助となれば幸いです。


分 類


 まずはPID分類の今です。国際免疫学会(International Union of Immunological Societies;IUIS)のPID専門委員会が1999年から分類を作成し、隔年で改訂されています。

 臨床的に免疫不全は、その種類と原因となる微生物の関係から@好中球数減少、A細胞性免疫障害、B液性免疫障害、C皮膚・粘膜障害に分類される方が多いと思います[2]。一方、現時点で最新の2015年に発表されたIUIS分類では、実に9つの疾患に分けられています[3]。具体的には、@細胞性および液性免疫に関連する複合型免疫不全症、A免疫系以外の症候を伴う複合型免疫不全症、B抗体産生不全を主とする疾患、C免疫調節障害、D食細胞減少および機能不全症、E自然免疫障害、F自己炎症性疾患、G補体欠損症、HPIDの表現型を取る疾患です。表1にまとめました。この記事を執筆する労力の半分くらいを、この表1をまとめることに割いたといっても過言ではありません。ただ、残念ながらこの表を参照しても「お、多いっ」くらいにしか思わないのではないでしょうか? 大丈夫です。ここで分かっていただきたいのは、現在のPIDの分類は多く、複雑だということです。


疫 学


 ここまで読まれた方も、「どうせそんなに多い疾患じゃないし」とか「小児科の疾患でしょ?」と、まだこの特集に懐疑的な方もいらっしゃるかもしれません。そんな皆様に、PIDは2つの意味で小児だけの病気でないこと、そしてPID自体、思ったより患者数が多いかもしれないことを説明したいと思います。

 そのためには疫学ですね。実はPIDの疫学(真の有病率)は分かっていません。日本で2006年に行われた研究(小児科1224施設、内科1670施設に調査票を送付)ではおよそ2900人(95%信頼区間2300〜3500人)の患者がいて、有病率は10万人当たり2.3人と推察されています[4]。

 海外でもレジストリーシステムが構築されてきたのは最近のことです。ヨーロッパではESID(European Society for Immune Deficiency)registry platformにおいて各国からデータが出されています。フランスでは選択的IgA欠損症なども組み込まれているせいもあるでしょうが、5/10万人[5]と日本よりも多い報告があります。アジアに目を向けてみると、シンガポールは日本と同等(2.65/10万人)[6]です。これらのデータはそれぞれ組み込む疾患が異なっているため、単純な比較は難しいです。さらに、診断されずに埋もれている患者がいるはずで、アメリカの1万家庭に電話調査した研究では一般人口における有病率は1200人に1人と推定されており[7]、有病率は過小評価されていると考えらえています。

 PID患者の年齢分布は日本では0〜4歳18.8%、5〜9歳20.0%、10〜14歳18.4%、15〜19歳13.4%、20歳以上29.4%で3割弱が成人です[4]。また、成人期に全体の5%が診断されています8)。一方で、アメリカの第3回全国PID患者調査では、いわゆる小児人口である18歳未満は26%に過ぎず、18〜29歳14%、30〜44歳16%、45〜64歳35%でした[9]。また、欧州で成人期に診断される例はおよそ21〜47%[10]と報告されています。このようにPIDは決して小児だけの疾患ではなく、成人患者の数も、成人期に診断されるケースも予想以上に多いのです。

 成人の場合、最も多い疾患は抗体産生不全症であり、内訳はCVID(common variable immunodeficiency)や選択的IgA欠損症などです。これらの疾患は、小児期には特に症状やPIDを疑う病歴がなくとも、20〜30歳代に易感染性のエピソードを繰り返し、診断されるのが典型的です。海外では92歳で初めて診断されたCVID患者も見つかっています。また、小児期に診断されたPIDでも治療の進歩などにより成人移行する場合があり、慢性肉芽腫症や高IgE血症などが多く報告されています[11]。


PIDを診断するには?


 過小評価しているかもしれないPIDを見つけるためにはどうすればよいのでしょうか? 家族や一般医に対して、小児PIDを見つけるために”10 warning signs”が提唱されています(表2)[12]。10の徴候のうち2つ以上当てはまった場合、PID専門の医師に相談するよう推奨されています。ただ、この10の徴候は1990年代にexpert opinionを参考に作成されています。どの徴候がPIDの診断に有効か調べられた研究ではPIDの家族歴、抗菌薬が必要な感染症罹患、体重増加不良の3つが挙げられ[13]、PIDの概念が自己免疫疾患や自己炎症性疾患にまで拡大した現代において10の徴候は感度62%、特異度52%に過ぎず、有用ではないという指摘もあります[14]。また、上述のように成人のPIDも見逃すわけにはいかず、ESIDが中心となって成人PIDを見つけるための”6 warning signs”を提唱しています。(表3)[15]。

 では、実際にどうすればよいのでしょう? 基本的には過小評価されているかもしれないPIDに関しては広く拾い上げることが重要かと思います。ですが、10の徴候はいまいちかもしれません。より特異的に疑うために「疾患特異的、専門医特異的にいつ疑い、何をするか?」に関してレビューが出ているので、特に感染症医の皆様のお役に立てるように病原菌からPIDを考慮し、どの検査を行うかを紹介します(表4)[16]。若干大まかすぎる気がしますが、紹介した論文の本文にはもう少し細かく書いてあるので、興味がある方は一度ご覧ください。また、冒頭で紹介したIUIS2015の分類発表とともに、各分類を疑った場合のフローチャートが作成されています。興味がある方はこちらもご覧いただければと思います[1]。さらに、オンライン診断補助ツール(http://web16.kazusa.or.jp/OAS/OAS.html)も開発されているので、こちらも参考にしてください。

 また、PIDの鑑別として、当然ながら二次性免疫不全症は評価する必要があります。HIV感染症や血液腫瘍、化学療法、ステロイド、生物学的製剤などの存在を同時に考慮してください。


PIDJを上手に使おう


 PIDを疑うきっかけは分かっても、スクリーニング検査の結果の判定が難しいということはよくあります。疑って検査したけど路頭に迷ってしまう、そんな皆様にPIDJ(Primary Immunodeficiency Database in Japan)http://pidj.rcai.riken.jp/を紹介します。PIDJは厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「原発性免疫不全症候群に関する調査研究」における調査研究班が理研免疫・アレルギー科学総合研究センターおよびDNA構造解析に実績のある財団法人かずさDNA研究所と連携し、日本におけるPID診療のプラットフォームになるべく開設されました。PIDを専門としている医師に相談できる専門医相談フォームがあり、必要時血液サンプルを送付すれば詳細な解析も行ってもらえます。また、ここに患者登録することにより、それが日本における最も大規模なレジストリーとなり、日本のPIDの疫学情報に寄与することができます。

注意:2017年現在、PIDJは個人情報保護法の改正に伴い、3月14日をもって機能を一時停止しているとのことです。再開されましたらご利用いただければ幸いです。http://pidj.rcai.riken.jp/medical_soudan2.html


最後に


皆様の中でPIDが少し体系的にまとまりましたか? 本稿でお伝えしたポイントは以下の3つです。 @PIDは複雑化している APIDは小児科だけの疾患ではなく、意外に患者数が多い BPIDJを活用しよう 実際に疑わしい患者が目の前に現れる可能性を自覚し、そのときに適切に行動していただければ、それに越したことはありません。



表1 IUIS PID分類2015のまとめ 拡大版を表示する


表2 小児で原発性免疫不全症を疑う10の徴候 拡大版を表示する


表3 成人で原発性免疫不全症を疑う6の徴候 拡大版を表示する


表4 感染症専門医のためのPID warning signs 拡大版を表示する

 

【References】

1)Bousfiha A,Jeddane L,Al-Herz W,et al:The 2015 IUIS Phenotypic Classification for Primary Immunodeficiencies.J Clin Immunol.2015 Nov;35(8):727-38.
2)具芳明:免疫不全と感染症,In 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版,医学書院,2015,p.1173-262.
3)Picard C,Al-Herz W,Bousfiha A,et al:Primary Immunodeficiency Diseases:an Update on the Classification from the International Union of Immunological Societies Expert Committee for Primary Immunodeficiency 2015.J Clin Immunol.2015 Nov;35(8):696-726.
4)Ishimura M,Takada H,Doi T,et al:Nationwide survey of patients with primary immunodeficiency diseases in Japan.J Clin Immunol.2011 Dec;31(6):968-76.
5)Gathmann B,Binder N,Ehl S,et al:The European internet-based patient and research database for primary immunodeficiencies:update 2011.Clin Exp Immunol.2012 Mar;167(3):479-91.
6)Lim DL,Thong BY,Ho SY,et al:Primary immunodeficiency diseases in Singapore―the last 11 years.Singapore Med J.2003 Nov;44(11):579-86.
7)Boyle JM,Buckley RH:Population prevalence of diagnosed primary immunodeficiency diseases in the United States.J Clin Immunol.2007 Sep;27(5):497-502.
8)厚生省特定疾患「原発性免疫不全症候群」調査研究班:原発性免疫不全症候群登録症例数,2007. http://pidj.rcai.riken.jp/public_shoureisu.html
9)Immune Deficiency Foundation:Primary Immune Deficiency Diseases in America:The Third National Survey of Patients(2007),2009. http://primaryimmune.org/idf-survey-research-center/idf-surveys/patient-surveys/
10)Gathmann B,Grimbacher B,Beaute J,et al:The European internet-based patient and research database for primary immunodeficiencies:results 2006-2008.Clin Exp Immunol.2009 Sep;157 Suppl 1:3-11.
11)Rosenberg E,Dent PB,Denburg JA:Primary Immune Deficiencies in the Adult:A Previously Underrecognized Common Condition.J Allergy Clin Immunol Pract.2016 Nov-Dec;4(6):1101-7.
12)Jeffrey Modell Foundation:10 Warning Signs. http://www.info4pi.org/library/educational-materials/10-warning-signs
13)Subbarayan A,Colarusso G,Hughes SM,et al:Clinical features that identify children with primary immunodeficiency diseases.Pediatrics. 2011 May;127(5):810-6.
14)Arkwright PD,Gennery AR:Ten warning signs of primary immunodeficiency:a new paradigm is needed for the 21st century.Ann N Y Acad Sci.2011 Nov;1238:7-14.
15)European Society for Immunodeficiencies:The 6 ESID warning signs for ADULT primary immunodeficiency diseases,2008. https://esid.org/Education/6-Warning-Signs-for-PID-in-Adults
16)Costa-Carvalho BT,Grumach AS,Franco JL,et al:Attending to warning signs of primary immunodeficiency diseases across the range of clinical practice.J Clin Immunol.2014 Jan;34(1):10-22.

 



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