KANSEN Journal No.56(2015.8.23)
(転送は歓迎します。内容の無断転載は禁止します)


 

 

【 ミニレビュー(3/3) 】
肺炎球菌感染症


北海道大学病院 内科I
中久保 祥

JCHO東京高輪病院 感染症内科・総合内科
渋江 寧

 


 

(今号は3週連続で配信しています。1号目 2号目

 

肺炎球菌感染症の治療

肺炎球菌感染症に対する治療は、感染巣によって、またドレナージが必要な合併症の有無などによっても異なりますが、ペニシリンを中心としたβラクタム系薬の使用が一般的です。βラクタムアレルギーを有する場合や耐性が問題になる場合に、代替薬や追加薬としてマクロライド、ニューキノロン、テトラサイクリン、バンコマイシンなどを用いるとされていますが、本邦ではマクロライド耐性が問題となっています。代替薬の詳細は成書に譲ります。

肺炎球菌治療の基本はペニシリンですが、ペニシリンを使用するに当たり、2008年にアメリカのClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)が提唱した、肺炎球菌における新たなペニシリン感受性判定基準()を理解する必要があります。

 

表 肺炎球菌における新たなペニシリン感受性判定基準(CLSI)
髄膜炎以外の場合
  感受性 中間 耐性
ペニシリンG (非経口) MIC≦2 MIC=4 8≦MIC
セフトリアキソン MIC≦1 MIC=2 4≦MIC
髄膜炎の場合
  感受性 中間 耐性
ペニシリンG (非経口) MIC≦0.06   0.12≦MIC
セフトリアキソン MIC≦0.5 MIC=1 2≦MIC

 

この基準では、ペニシリン感受性判定を「髄膜炎」と「髄膜炎以外」で分けて考えています。ペニシリンGは、髄膜炎の場合はMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)≦0.06で感受性、0.12≦MICで耐性としているのに対し、髄膜炎以外ではMIC≦2を感受性、MIC=4を中等度耐性、8≦MICを耐性としています。これを踏まえると、MICが1〜2程度の肺炎球菌による肺炎ではペニシリンGの治療効果が期待できます。実際、本邦ではMICが4以上の耐性菌はほとんど検出されていませんので、現時点で肺炎球菌肺炎にペニシリンGを使用することは原則問題ありません。

一方、髄膜炎の場合はブレイクポイント(感受性と耐性の境界)がかなり低く設定されているため、たとえグラム染色や培養で肺炎球菌と確定できたとしても、感受性が判明する前にペニシリンGに治療変更することは危険です。

ちなみに、セフトリアキソンなどの髄液移行性が良好なβラクタム系薬でも、CLSIのブレイクポイントは髄膜炎の場合で低めに設定されています。このことから、細菌性髄膜炎のエンピリック治療ではペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮して、セフトリアキソンにバンコマイシンを加えることが標準的となっています。

 

予防――肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌ワクチンは全世界で普及しつつあり、小児のみならず、成人への適応も拡大しているため、接種を検討する機会は今後さらに増えてくると思います。しかし、各国での推奨内容が異なり、エビデンスとして不明瞭な部分も残されており、肺炎球菌ワクチン事情は少々ややこしいことになっています。ここでは、ワクチンの概説と、本邦の事情を踏まえた適応を説明したいと思います。

1.結合型ワクチン
結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine;PCV)は、小児とリスクの高い成人患者に使用されるワクチンです。このワクチンの特徴は「免疫がつきやすく効果が高い」ことで、本来T細胞非依存性抗原である莢膜多糖体に、担体となるキャリア蛋白を結合させることでT細胞に認識され、良好な免疫反応を得やすいとされます。

2000年から7つの血清型をカバーする7価PCV(プレベナー7 )が小児で導入され、以後、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease;IPD)の発症率が有意に低下したという報告がなされています[1]。ワクチンを受けた児のみならず、成人のIPD発症率も低下させたという結果も出ており、集団免疫を含めた高い予防効果が示されています。現在は、13の血清型をカバーした13価PCV(プレベナー13 )が主流になっており、本邦では2013年から小児に対して定期接種が行われています。

2.莢膜多糖体ワクチン
莢膜多糖体ワクチン(pneumococcal polysaccharide vaccine;PPSV)は、主に高齢者とリスクの高い成人患者に使用されるワクチンです。特徴は「カバー範囲が広い」ことで、23の血清型をカバーした23価PPSV(ニューモバックス )があり、IPDの原因となる血清型の85〜90%をカバーしています[2]。小児はB細胞が未熟であり、T細胞非依存性のこのワクチンでは免疫獲得できないため、適応となっていません。

PPSVではIPDの発症リスクを減少させることは示されているものの、成人に多い肺炎球菌肺炎の減少は直接証明されていません。しかしながら、PPSV23導入により日本の高齢者集団施設における肺炎の発症率・死亡率が低下したという報告など[3]、肺炎における一定の効果が伺えます。本邦では2014年10月から、65歳以上の高齢者に対してPPSV23の定期接種が開始されています。

3.成人での適応
基本的に65歳未満の健常成人に肺炎球菌ワクチンは必要ありません。ワクチンが適応になるのは「慢性疾患を有する成人」「免疫不全を有する成人」「65歳以上の高齢者」です。

1)慢性疾患を有する成人
慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、肝硬変、糖尿病などの基礎疾患を有する成人に対してPPSV23の接種を推奨しています。

2)免疫不全を有する成人
無脾症、脾摘後、髄液漏、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、HIV感染症、移植患者、慢性腎不全、ステロイド使用などの背景を有する成人に対し、PCV13の接種と、それに続く(8週以上の間隔を空けて)PPSV23の接種を推奨しています[4]。

3)65歳以上の高齢者
現在のところ最もグレーゾーンなのは、65歳以上の高齢者に対する推奨です。注目すべきはアメリカのAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)による2014年9月の声明ですが、「65歳以上の高齢者にPCV13とそれに続くPPSV23の接種」を推奨しています[5]。しかしながら、ACIPがこのように推奨するに至った経緯が不明瞭で、これを受けて2015年1月に日本感染症学会も声明を出しましたが、「65歳以上の高齢者へのPSV13を含む接種に対する指針を出すのは困難」としています[6]。日本では65歳以上の高齢者へのPPSV23の定期接種が開始されていることもあり、現時点でPCV13を積極的に選択すべきかどうかは議論の余地があるところですが、2015年3月に発表されたCAPITA臨床試験(
)の結果が今後の指針に影響するかもしれません[7]。

 CAPITA臨床試験:65歳以上の高齢者へのPCV13の効果を検討したオランダの無作為化二重盲検試験。PCV13接種群ではプラセボ群と比較して、ワクチンがカバーする血清型の肺炎球菌感染症の発症率が有意に減少したが、肺炎全体の発症率は変わらなかった。

日本での対応をまとめると、以下のようになります。

〇65歳未満の健常者
 →接種の必要なし
〇慢性疾患を有する成人
 →PPSV23 の接種(任意接種)
〇免疫不全を有する成人
 →PCV13の接種(任意接種)、続いてPPSV23の接種も考慮(任意接種)
〇65歳以上の高齢者
 →PPSV23の接種(65・70・75・80・85・90・95歳、100歳以上は定期接種)

上記はあくまで現状を踏まえた暫定的なものであり、学会の声明やガイドラインを適宜チェックすべきでしょう。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

【point】

・肺炎球菌感染症の抗菌薬選択では、髄膜炎があるかどうかが最も重要なポイントである。

・髄膜炎がない場合は、肺炎球菌感染症にペニシリンGを問題なく使用できることがほとんどだが、髄膜炎の場合は感受性結果に気を付けなければならない。

・肺炎球菌ワクチンには結合型ワクチンのPCV13と、莢膜多糖体ワクチンのPPSV23があり、それぞれ特徴が異なる。

・成人における肺炎球菌ワクチンの適応は基礎疾患(慢性疾患)や免疫不全を有する場合と65歳以上の高齢者である。

・65歳以上の高齢者に対して現時点ではPPSV23で問題ないが、推奨内容は今後変化する可能性がある。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

【References】


1)Pilishvili T,et al:Sustained reductions in invasive pneumococcal disease in the era of conjugate vaccine.J Infect Dis.2010 Jan 1;201(1):32-41.
2)Prevention of pneumococcal disease:recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP).MMWR Recomm Rep.1997 Apr 4;46(RR-8):1-24.
3)Maruyama T,et al:Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents:double blind,randomised and placebo controlled trial.BMJ.2010 Mar 8;340:c1004.
4)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine for adults with immunocompromising conditions:recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP).MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2012 Oct 12;61(40):816-9.
5)Tomczyk S,et al:Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine among adults aged ≥65 years:recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP).MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2014 Sep 19;63(37):822-5.
6)日本感染症学会:65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方.
http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1501_teigen.html
7)Bonten MJ,et al:Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults.N Engl J Med.2015 Mar 19;372(12):1114-25.
8)青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル,第3版,医学書院,2015,p.1041-53.
9)Janoff EN,et al:Streptococcus pneumoniae,In:Mandell GL,et al,Mandell,Douglas,and Benett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,8th ed,Churchill Livingstone,2014,p.2310-27.


 

(了)


※『KANSEN JOURNAL』配信のお申し込み&バックナンバーは、
   日本感染症教育研究会(IDATEN)ウェブサイト 
   http://www.theidaten.jp/melmaga.html より

※原稿についてのご意見、ご感想はシーニュ社
   http://www.thesigne.jp/ まで

発行:シーニュ