KANSEN Journal No.56(2015.8.7)
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【 ミニレビュー(1/3) 】
肺炎球菌感染症


北海道大学病院 内科I
中久保 祥

JCHO東京高輪病院 感染症内科・総合内科
渋江 寧

 


 

(今号は3週連続で配信します。)

 

はじめに

肺炎球菌は、世界中に広く分布しているグラム陽性双球菌です。小児でも成人でも、気道感染を中心に様々な感染症を引き起こす「メジャー」な起炎菌であり、1881年にパスツールによって初めて同定されて以来、長い歴史の中で様々な研究がなされてきている、感染症診療における「古典的」な存在です。

現在でもペニシリンGが第一選択になり得て、診断においてグラム染色といった基本ツールの重要性がいまだ揺るがない、感染症診療の「王道」でもあります。どれだけ症例数を見ても、グラム染色でその特徴的な姿をとらえたときに心躍るのは筆者だけではないはずです。

その一方で、肺炎球菌感染症はいまだ死亡率が高いのが現状で、昨今の肺炎球菌ワクチンの普及に伴い、今後の新たな疫学的動向が注目されている「イマドキ」な微生物です。

今回のミニレビューでは、肺炎球菌感染症の疫学や臨床像を踏まえ、主に肺炎における診断と治療、そして予防について概説したいと思います。筆者は感染症医を志す呼吸器内科医であり、必然的に成人の記載に偏ってしまうことはご容赦ください。

 

疫 学

 1.市中肺炎における肺炎球菌

市中肺炎(community-acquired pneumonia;CAP)における肺炎球菌の喀痰培養での分離頻度は報告により様々ですが、5〜25%とされます[1-3]。この数値だけ見れば、頻度として決して高くないと考えてしまいがちですが、実際には培養で有意な菌がつかまらないCAPの大部分は肺炎球菌によるものと考えられています。その理由として、例えば次のことが挙げられます。

○肺炎球菌はオートリシン(autolysin)という自己融解酵素を分泌し、培養で比較的生えにくい菌であること(菌血症が証明された肺炎球菌肺炎における喀痰培養の感度は50%とされる)。
○経気管吸引法などの侵襲的検査による検体採取では、肺炎球菌の分離頻度が高くなること。

2013年に報告された本邦での前向き研究では、CAPの起炎菌の34.8%、医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia;NHCAP)の起炎菌の33.9%が肺炎球菌で、最多の原因だったとしています[4]。教科書的な分離頻度と比べて明らかに高い数値ですが、これは日本で肺炎球菌が特に多いからというわけではなく、喀痰培養の検体の質と培養技術に大きく左右されていると推測されます。

肺炎球菌肺炎の死亡率は、重症度と宿主の要因によって大きく変化しますが、16〜55%とされます[2]。死亡におけるリスクとして、Pneumonia Severity Index(PSI)や(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)スコアなどの重症度スコアが高値であること以外に、高齢、ショック、HIV感染、腎不全などが挙げられます。

菌血症を合併した肺炎球菌肺炎症例の死亡リスクの比較検討が複数なされており、2014年の前向き研究(肺炎球菌肺炎で血培陽性492例vs 血培陰性399例)では、30日死亡率は血培陽性例で有意に高かったという結果です(9.3% vs 3.7%、p=0.0005、OR 2.7)[5]。

 2.侵襲性肺炎球菌感染

肺炎球菌が血液や髄液など無菌検体から検出された場合、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease;IPD)と呼びます。地域性、流行している血清型、患者の年齢や基礎疾患、ワクチン接種の有無などが、IPDの発症にかかわってきます。

IPDは世界全体の傾向として、2歳未満の小児と65歳以上の高齢者にピークがありますが、本邦のデータでも同様で、2013年4月〜2014年8月に報告されたIPD全患者に占める5歳未満と65歳以上の割合は、それぞれ23%、50%でした[6]。65歳以上のIPD症例の多くは肺炎に伴う菌血症であり、次いで髄膜炎となりますが、65歳未満の成人では髄膜炎が最多であり、年齢によって起こりやすい病像は異なっています[7]。

IPDの疫学を検討した前向き研究では、IPDの死亡率は17%で、65歳以上の高齢者、Pitt Bacteremia ScoreやAPACHE IIスコア高値、基礎疾患や免疫不全(脾摘、固形がん化学療法、自己免疫疾患、血液腫瘍、HIV感染)が死亡リスク因子として報告されています[8]。

 

肺炎球菌感染のリスクファクター(表)

報告されているものは多岐にわたりますが、肺炎球菌に対する宿主の防御機構のどこが障害されるかを分けて考えると分かりやすいです。

まず、侵入門戸となる気道に問題を生じうる環境(喫煙や寒冷曝露)や気道上皮の障害が関与します。先行するウイルス感染は特に重要であり、インフルエンザウイルス感染後の二次感染として細菌性肺炎をきたすことがありますが、この起炎菌として最多なのは、やはり肺炎球菌です。中耳や頭蓋底の解剖学的変化(人工中耳、外傷など)もリスクとなります。

肺炎球菌は莢膜を有しており、脾摘後や低γグロブリン血症などの液性免疫不全の存在が感染のリスクとなる代表的な菌です。脾摘後重症感染症(overwhelming post-splenectomy infection;OPSI)の起炎菌も肺炎球菌が最多となります。

その他の免疫機構として、補体や細胞性免疫、好中球なども複合的に関与してくるため、これらの機能低下もリスクとして報告されており、未治療の進行したHIV感染者では、IPD発症リスクは健常者の80〜100倍とされます[9]。

肺炎球菌は成人の5〜10%で咽頭に定着しており、気道に定着していても必ずしも肺炎を発症するとは限りません。しかし、高齢者を中心にアウトブレイクは起こりうるようで、長期療養施設などで、単一株による肺炎球菌肺炎の集団発生が報告されています[10]。感染患者や保菌者との接触、密集した空間は、時に感染のリスクになると認識すべきで、感染経路の推定と把握はリスク評価や疫学的にも重要なことだと思います。

表 肺炎球菌感染症のリスクファクター
障害される防御機構

リスクファクター

解剖学的異常 先行するウイルス感染
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
気管支喘息
耳管ドレナージ不良
髄液漏
人工内耳
抗体産生障害
(液性免疫不全)
先天性無γグロブリン血症
慢性リンパ性白血病
多発性骨髄腫
HIV感染
低補体 先天性補体欠損症
ネフローゼ症候群
補体消費性の病態
好中球の減少・機能障害 薬剤性好中球減少
再生不良性貧血
糖尿病
網内系障害 先天性無脾症、脾低形成
脾臓摘出後
鎌状赤血球
門脈圧亢進症
複合的/その他 高齢
HIV感染
慢性的な臓器機能低下
(肺、肝臓、腎臓、心臓)
慢性アルコール摂取
固形臓器移植、骨髄移植
悪性リンパ腫
環境要因 喫煙
密集環境(長期療養施設、刑務所など)
ストレス
季節(冬)
(Janoff EN,et al:Streptococcus pneumoniae,In:Mandell GL,et al,Mandell,Douglas,and Benett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,8th ed,Churchill Livingstone,2014,p.2310-27.をもとに筆者作成)

 

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【point】

・市中肺炎において、現在でも肺炎球菌は最多の原因である。

・侵襲性肺炎球菌感染症は、2歳未満の小児と65歳以上の高齢者に多い。

・肺炎球菌感染症のリスクファクターは多岐にわたるが、重要なものとして、先行するウイルス気道感染症、頭蓋内の解剖学的変化、脾摘などの液性免疫不全、HIV感染などがある。

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【References】

1)Musher DM,et al:Community-acquired pneumonia. N Engl J Med.2014 Oct 23;371(17):1619-28.
2)Marrie TJ,et al:Pneumococcal pneumonia in adults,UpToDate.
http://www.uptodate.com/contents/pneumococcal-pneumonia-in-adults
3)Janoff EN,et al:Streptococcus pneumoniae,In:Mandell GL,et al,Mandell,Douglas,and Benett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,8th ed,Churchill Livingstone,2014,p.2310-27.
4)Fukuyama H,et al:A prospective comparison of nursing- and healthcare-associated pneumonia(NHCAP)with community-acquired pneumonia(CAP).J Infect Chemother.2013 Aug;19(4):719-26.
5)Capelastegui A,et al:Pneumococcal pneumonia: differences according to blood culture results.BMC Pulm Med.2014 Aug 5;14:128.
6)国立感染症研究所:侵襲性インフルエンザ菌・肺炎球菌感染症 2014年8月現在.
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1150-disease-based/a/haemophilus-influenzae/idsc/iasr-topic/5045-tpc416-j.html
7)国立感染症研究所:侵襲性肺炎球菌感染症・侵襲性インフルエンザ菌感染症の発生動向 ―2013年4月からの5類全数届出の状況について―.
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1375-disease-based/ha/streptococcus-pneumoniae/idsc/iasr-in/4404-pr4082.html
8)Aspa J,et al:Impact of initial antibiotic choice on mortality from pneumococcal pneumonia.Eur Respir J.2006 May;27(5):1010-9.
9)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine for adults with immunocompromising conditions:recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP).MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2012 Oct 12;61(40):816-9.
10)Nuorti JP,et al:An outbreak of multidrug-resistant pneumococcal pneumonia and bacteremia among unvaccinated nursing home residents.N Engl J Med.1998 Jun 25;338(26):1861-8.

 

(続く)


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