KANSEN Journal No.55(2015.7.3)
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リベリアのコミュニティでの
エボラ出血熱対応の活動経験(その2)


日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科部 兼 国際医療救援部

古宮伸洋

 


 

(今号は3週連続で配信しています。1号目

 

現地での活動

活動初日の朝、リベリア赤十字社本社のスタッフとあいさつを交わした後に、首都モンロビアから1時間ほどの距離にあるリベリア赤十字モンセラード支部で行われるボランティアのトレーニングに参加することになった。

リベリアは人口410万人、面積は11万平方キロメートルと北海道より少し大きいくらい、年間平均気温26℃前後の西アフリカに位置する熱帯の国である。経済はゴム栽培など農業に依存しているが、国民の6割程度が貧困層(1日1.25ドル以下で暮らす)である。10年ほど前まで内戦が続いていた影響もあり、十分な教育を受けることができなかった国民が多く、UNICEFの調査では識字率は約4割と報告されている。

日本で啓発活動を行うのであればテレビや新聞、インターネットなどを利用するのが効率的だと思う。しかし、後に行った調査でも明らかになるが、リベリアではそういったメディアは一般的ではない。リベリア赤十字社の啓発活動の基本プランは、ボランティアを動員して各コミュニティへ正しい知識を伝達することであった。

具体的には、リベリアのほとんどの地域には赤十字地方支部があるので、(1)各支部に支部長を中心としたエボラ対応チームを立ち上げる、(2)各チームがボランティアを訓練する、(3)各ボランティアがそれぞれコミュニティや学校などを回って啓発活動を行う、という極めて地道なやり方である。しかし、電気などのインフラが整っていないような地域では、このような方法を取るしかない。

ボランティアへのトレーニングでは、支部のエボラ対策チームのメンバーが病気の基礎知識、疑い患者を見つけたときの対応についてレクチャーを行う。彼らは普段からボランティアたちをリードする立場の人たちであるためか、いずれも話をするのが非常に上手で、参加するボランティアたちもまた非常に積極的でどんどんと質問を投げかけてくる。日本人を含むアジア人と比べると、アフリカ人は話好きな人たちで、積極的に議論に参加してくれるように感じる。

トレーニングを終了したボランティアたちは、それぞれ担当コミュニティで啓発活動を行い、毎週末にエボラ対策チームにその成果を報告する。地道ではあるが約400人(活動当時)のボランティアが連日、コミュニティで活動を行うことで、かなりの地域、住民に啓発活動が行き渡ることになる(写真)。


写真 ボランティアが住民に啓発活動を行っているところ

 

ここまで「ボランティア」という表現をしているが、実は厳密には彼らは「ボランティア」ではない。彼らには昼食代、あるいは交通費という名目で1日につき数ドル程度が支払われる。リベリアでは政府に住民をサポートする力が十分にはないため、自分たちでお互い助け合おうという精神が強い。しかし、啓発活動を連日行うというのはもはやボランティアとしてできることではなく、完全に仕事である。失業率の高いリベリアでは「ボランティア」の募集をすると非常に多くの応募があるため、人材を確保することは難しくはない。

安全の確保は活動を行う上で第一に優先される。地方には閉鎖性の強いコミュニティも存在する。ギニアでは支援活動中に襲撃されるなどの事件、リベリアでも昨年8月にはエボラ治療施設が襲撃される事件が発生している。われわれはコミュニティで活動を行う際には、そのコミュニティ出身のボランティアと同行し、コミュニティリーダーへのあいさつを最初に行うようにしていた。当たり前のことではあるが、これを徹底したことで、活動中に問題になるような事例は発生しなかった。

 

(つづく)


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