KANSEN Journal No.52(2014.11.8)
(転送は歓迎します。内容の無断転載は禁止します)


 

 

臨時号

エボラウイルス感染症の現状と対策(その2)


奈良県立医科大学感染症センター

笠原 敬

 


 

 


エボラウイルス感染症の現時点の流行状況(2014年11月8日)

1.ギニア、リベリア、シエラレオネ(広範囲に及ぶ深刻な感染の伝播が生じている国)

 Kansen Journalでエボラに関する第一報を10月23日に報告してからはやくも2週間以上が過ぎた。10月17日付けのWHOの報告では疑い例から確定例までの総計は9,216症例、死亡例が4,555症例であったが、11月2日付けの報告では疑い例から確定例までの患者数は約1.4倍の13,042症例と増加している[1]。一方死亡者も4,808症例と増加してはいるが、患者数の増加率と比較すると死亡者の増加率は抑制されている。WHOが「広範囲に及ぶ深刻な感染の伝播が生じている国」と定義しているギニア、リベリア、シエラレオネの3国での流行状況をみるとギニアの発生数は横ばい、リベリアでは減少傾向にある一方で、シエラレオネでは増加している。またWHOはこれらの数は全数を反映しているわけではなく、かなりの症例が報告されていないのではないか(under-reported)と見ている。

2.アメリカ、スペイン、マリ、セネガル、ナイジェリア(初期の数症例が生じているか、限局的な伝播が生じている国)

 アメリカ、スペイン、マリ、セネガル、ナイジェリアはWHOでは「初期の数症例が生じているか、限局的な伝播が生じている国」と定義されている。特にアメリカ、スペインでは国内での2次感染例などに関して10月上旬から中旬にかけて報道が相次いだがその後の状況はどうなっているのだろうか。
 アメリカで治療されたエボラウイルス感染症患者は2014年11月5日現在で9名である。特にリベリアで感染し10月8日に死亡した患者とそのケアにあたった2名の看護師の2次感染は非常に大きなニュースになった。テレビニュースでは路上の患者の吐物を無防備な姿で放水して洗浄する清掃員の姿が映され、さらなる2次感染、3次感染は必発とも思われるような報道がなされたのは記憶に新しい。本件については177名の接触者が21日間の健康監視下に置かれていたが、11月7日には全員が発症することなく健康監視期間が終了した[2]。また10月23日にはギニアでエボラ患者の治療にあたった医師がニューヨークのベルビュー病院でエボラウイルス感染症と診断された。発症前に地下鉄に乗っていた、ボーリングに行ったなどとの過剰ともいえる患者の行動に関する報道がなされ、現在も接触者の健康監視が継続中であるが、11月8日時点で2次感染は報告されていない。またこの医師は一時重篤な状態にあることが報告されたが、エボラウイルス病に感染して治癒したアメリカ人患者からの輸血などの治療を受け、現在は軽い運動をしたり趣味のバンジョーを演奏するなど改善傾向にあるという[3]。
 スペインでは西アフリカで感染した神父2人がマドリードで治療を受けたが死亡し、この看護に関わった女性の2次感染が10月6日に報告された。一部ニュースではこの女性の搬送に関与した者が3次感染したのではないかなどのニュースが流れた[4]。実際には3次感染は起こっておらず、それどころかこの女性は11月5日に軽快退院し、さらに83名の接触者においてもすでに21日間の健康監視期間が終了している[5]。
 11月8日時点での状況としては、アメリカで診断されたエボラウイルス感染症患者の最終発生日は10月23日、スペインでは10月6日であり、またセネガル、ナイジェリアではそれぞれ10月17日、10月19日にエボラウイルス病発生の終息宣言が出されている。
 10月23日にギニアから祖母とともにマリに入国した2歳の女児がエボラウイルス感染症と診断された。11月5日現在108名の接触者が健康状態の監視下にある。


日本におけるエボラウイルス感染症に関する動向

 厚生労働省と国土交通省は11月4日にエボラウイルス感染症が疑われる患者が航空機で日本に到着した場合、感染確認前に年代や性別、症状、航空会社や便名など様々な情報を公表すると発表している。日本では10月27日と11月7日にいずれもリベリアからの帰国者でエボラウイルス感染症の疑いがあり、国立国際医療センターに入院・検査されたが陰性であったとの報道があった。また11月7日にはギニア人が関西国際空港で発熱を訴え、りんくう総合医療センターに搬送され熱帯熱マラリアと診断されている。11月8日時点では日本人のエボラウイルス感染症患者は報告されていない。
 また厚生労働省は一般市民向けへのメッセージとしてギニア、リベリア、シエラレオネの三国へ渡航後1ヵ月以内に発熱した場合は地域の医療機関を受診せず保健所に連絡することを呼びかけ[6]、医療機関へもエボラウイルス感染症患者が発生した場合は速やかな保健所への届出や、患者から電話相談があった場合は自宅待機を要請することなどを通知し[7]、行政機関へはエボラウイルス感染症の疑似症患者を特定感染症指定医療機関・第一種感染症指定医療機関へ搬送することなどを通知している[8]。
 一方で沖縄の市中病院でリベリアからの帰国者が熱帯熱マラリアと診断されているが、この際にはエボラウイルス感染症を想定した特別な感染対策体制を取れなかったとし、一般市中病院における対応の困難さが報告されている[9]。また11月7日に国立国際医療センターに入院した患者もそれ以前に渡航歴を伝えることなく近医を受診したと報道されており、厚労省通知の周知徹底に関する課題が表面化している。
 いずれにせよ、各医療機関では「全ての患者が渡航歴を伝えてくれるわけではない」ことを大前提として、改めて「全ての患者の湿性生体物質には感染性があると考えて行動する」という標準予防策の原則を見直し、行動することが求められている。


有用なリソース

 現時点で利用できる主にインターネット上のリソースを紹介する。


おわりに

 エボラウイルス感染症に関する各種報道では、どうしても「エボラウイルス感染症患者が発生か!?」「検査は陰性であった」などの第一報のみが大々的に取り上げられ、その後の情報が(報道されていたとしても)継続的に伝達されにくい。アメリカやヨーロッパでは英語による報道が行われているが、そのような情報は日本語に翻訳されることは少なく、日本の多くの一般市民はもちろん、医療従事者ですら偏った情報で判断せざるをえない状況になっているのではないだろうか。
 Kansen Journal編集部およびIDATENでは、感染症教育の専門集団として、引き続き正確で公平な情報を伝えていきたいと考えている。

 

【References】

1)厚生労働省検疫所FORTH. エボラ対応に関するロードマップ. (Accessed at http://www.forth.go.jp/topics/2014/11061501.html
2)abcNEWS. Last Person Completes Ebola Monitoring in Texas.(Accessed at http://abcnews.go.com/Health/person-completes-ebola-monitoring-texas/story?id=26742640)
3)The New York Times. In Exclusive Club of U.S. Ebola Survivors, Kinship Is Sealed in Blood.(Accessed at http://www.nytimes.com/2014/11/06/nyregion/in-exclusive-club-of-us-ebola-survivors-kinship-is-sealed-in-blood.html?_r=0)
4)朝日新聞デジタル. エボラ熱、3次感染の疑い 2次感染の女性を搬送.(Accessed at http://www.asahi.com/articles/ASGBK1R6XGBKUHBI001.html
5)The New York Times. Free of Ebola, Nurse's Aide Leaves Spanish Hospital.(Accessed at http://www.nytimes.com/2014/11/06/world/europe/ebola-outbreak-spain.html?_r=0)
6)厚生労働省. エボラ出血熱について.(Accessed at http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola.html)
7)厚生労働省健康局結核感染症課長. 健感発 1024 第1号,エボラ出血熱の国内発生を想定した医療機関における基本的な対応について(依頼).(Accessed at http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20141024_01.pdf)
8)厚生労働省健康局結核感染症課長. 健感発 1024 第3号,エボラ出血熱の国内発生を想定した行政機関における基本的な対応について(依頼)..(Accessed at http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20141024_02.pdf)
9)国立感染症研究所. <速報>一般市中病院に来院した西アフリカからの帰国者における熱帯熱マラリアの一例.(Accessed at http://www.nih.go.jp/niid/ja/malaria-m/malaria-iasrs/5082-pr4173.html

 

(了)


※『KANSEN JOURNAL』配信のお申し込み&バックナンバーは、
   日本感染症教育研究会(IDATEN)ウェブサイト 
   http://www.theidaten.jp/melmaga.html より

※原稿についてのご意見、ご感想はシーニュ社
   http://www.thesigne.jp/ まで

発行:シーニュ