KANSEN Journal No.48(2014.5.2)
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Case Study (3/3)

発熱・発疹を訴えERを受診した50歳代男性


日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科

大棟浩平 古宮伸洋

 




(今号は3週連続で配信します。)

ダニが媒介する疾患とリケッチア感染のreview
 ズボンをきちんと脱がしてみると、明らかに対称性の分布ではないことが分かった。さらに、左膝周囲の紅斑をよく見ると1か所4〜5mm程度の痂皮が見られた(図1)。上級医は野山への入山歴などを確認したが、それはないとのことであった。しかし、それでも上級医はこの痂皮をマダニ咬創(刺し口)と考え、リケッチア感染(ツツガムシ、日本紅斑熱)を疑った。


図1 左膝周囲の所見

 

 ここ和歌山は、ツツガムシ病、日本紅斑熱いずれの感染も見られる地域である(図2)[1]。時期的に日本紅斑熱もツツガムシ病も考えられたが、ツツガムシ病が手足に紅斑が少ないのに比し、本症例では手足にも紅斑が見られたことから、日本紅斑熱のほうが可能性としては高いと考えられた[2]。


図2 つつが虫病と日本紅斑熱患者の都道府県別発生状況 拡大

(IASR:つつが虫病・日本紅斑熱2006〜2009,2010;31(5):120-2.より引用)

 

 診断方法は、特異的血清診断として、間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP)または間接免疫蛍光抗体法(IFA)を行い、ペア血清で抗体価の4倍以上の上昇またはIgM抗体の上昇を証明する。急性期血液あるいは痂皮(刺し口)そのものを検査材料としたDNA診断(PCR法)でも診断可能である。これらの検査は一般の検査センターの検査項目には入っていないので、保健所を通じて相談するのが一般的である。今回は血液および痂皮を検体にPCRを施行し、いずれも日本紅斑熱の原因であるRickettsia japonica を検出し、診断に至った。

 再度詳しく問診を行ったところ、やはり野山への入山歴はないとのことだったが、家の周囲は山や川に囲まれた自然が豊かなところに住んでいるとのことだった。

 

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確定診断:日本紅斑熱

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日本紅斑熱ついて
・日本で1984年に発見された新興感染症で、年間約100例以上が報告されている[3]。
・3徴候は高熱、発疹、刺し口(典型的には5〜10mmの赤く丸い硬結で、潰瘍や黒色痂皮を有する)[4]。
・刺し口はほぼ全例に認めるとの報告がある一方で、全患者の48%にしか認めなかったとする報告もある。刺し口検出率の乖離の原因として、マダニに刺咬されてからの経過日数やマダニの種類などにより形態に多様性があることや、耳介・眼瞼・毛髪部位・陰部など見つけにくい場所にあるためと思われる[5]。
・ダニに咬まれて2〜10日後に高熱、悪寒戦慄、頭痛などで急激に発症する。急性期には39〜40℃の弛張熱が多く、重症例では40℃以上が持続する。
・数日以内に小豆大ほどの辺縁不整な紅斑が四肢・体幹に多数出現。かゆみや痛みは伴わない。
・検査所見は日本紅斑熱に特異的なものはない。血液検査では比較的初期から白血球数減少(好中球増多、左方移動あり)、異型リンパ球の出現、血小板数減少、トランスアミナーゼ上昇、CRP上昇が見られる。尿検査では、蛋白や潜血が陽性となる[6]。
・重症例では、赤血球の血管外漏出が生じて出血斑や紫斑となり、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)や、急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans;AIPF)を呈する例もある[7]。

 

ダニについて
 未発見・未登録のダニを含めると、地球上には50万種前後のダニが存在すると推測されるが、現在知られているのは4万種強のみである。日本国内では約1700種のダニが知られている。大きさは昆虫に比べはるかに小さく、最小で90μm〜3cm(マダニ類の雌の吸血後)程度である。ダニは雄よりも雌のほうが大きい。また、胴部のほとんどを消化管が占めているので、吸血するタイプのダニなどは血を吸うと丸々となる。

 宿主に寄生したダニは、吸血時にエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、プロスタグランジンE2などの物質を含む唾液を分泌して局所の炎症、充血、浮腫などを引き起こし、皮膚を溶かしながら皮膚表面を切り開き、口下片を差し込んで皮下に形成された血液プールから血液を摂取する。幼虫や若虫のときに野生動物などから吸血する際に病原体を取り込み、次に動物やヒトを刺咬したときに病原体を伝播する。

 ダニはクモ網ダニ目の節足動物であるが、卵から孵ったばかりの幼虫の足は6本で、脱皮によって若虫・成虫になると足が8本になる特徴を持つ。クモは頭胸部と腹部との境がくびれてはっきりしているが、ダニでは両者が合一して1つの袋(管)のようになっている。

 ダニ目は計12の類に分かれ、ツツガムシ類、ツメダニ類(以上、前気門類)、ヒゼンダニ類、ヒョウヒダニ類、コナダニ類(以上、無気門類)、マダニ類(後気門類)などがある(図3)[8]。ヒゼンダニは疥癬、ヒョウヒダニはアレルゲン、コナダニは喘息の原因となるなど、ダニは感染症だけでなく数々の疾患の原因となることが知られている。

 


図3 マダニの分類学的位置  拡大
(佐伯英治:マダニの生物学,動薬研究,1998;57:13-21.より引用)

 

 

 マダニ類はさらにマダニ科(硬い甲羅を持つタイプ)、ヒメダニ科(甲羅を持たない柔らかいタイプ)、ヌッタリア科に分かれ、その中でマダニ科マダニ属に属するキチマダニ、フタトゲチマダニが今回の日本紅斑熱の原因であるRickettsia japonica を媒介するといわれている。新種の感染症として注目を集めた重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome;SFTS)ウイルスも、フタトゲチマダニなどが刺咬することによって感染するといわれている[9]。

 マダニをベクターとした感染症は、ウイルス、細菌、リケッチア、スピロヘータ、原虫と多岐にわたる。表1に、ダニが媒介する疾患を病原体別にまとめる[8]。

 

表1 マダニにおける病原体保有状況の交錯性

病原体

病 名

マダニ

ヒメダニ

ウイルス

中部ヨーロッパ脳炎

ロシア春夏脳炎

 

クリミア・コンゴ出血熱

重症熱性血小板減少症候群

 

細 菌

野兎病

リケッチア

ロッキー山紅斑熱

発疹チフス

 

発疹熱

 

北アジアマダニチフス

リケッチア痘

 

日本紅斑熱

 

ツツガムシ病

 

Q熱

 

アナプラズマ症

 

スピロヘータ

回帰熱

 

ライム病

 

原 虫

バベシア症

 

タイレリア病

 

◎:有力 ○:報告例あり ?:可能性あり
(佐伯英治:マダニの生物学,動薬研究,1998;57:13-21.より引用改変)


リケッチアついて
 リケッチアはリケッチア目の3科12属に分類される偏性細胞内寄生菌である。リケッチアはグラム陰性菌で球桿状(0.2〜0.5×0.4〜1.0μm)であるが、ほとんどのリケッチアは宿主の細胞外では培養ができない。

 一般的には宿主の細胞質内、時には核内で増殖する。12属の中でリケッチア属、オリエンチア属、エールリキア属などがヒトに病原性がある。代表的な疾患としてリケッチア属には発疹チフス、発疹熱、ロッキー山紅斑熱、日本紅斑熱、またオリエンチア属にはつつが虫病の病原体が知られている(図4)[10]。表2に、世界で見られるリケッチア科の感染症を示す[6]。

 


図4 リケッチアの分類と属する病原細菌  拡大
(吉田眞一:リケッチアの分類の変遷と新しい分類,感染症学雑誌,2003;77(6):415-7.より引用改変)

 

表2 世界で感染症を媒介するリケッチアの一例

目・科

疾患群

疾患名

病原体

発症地

リケッチア目

リケッチア科

紅斑熱群

(spotted fever group)

日本紅斑熱

ロッキー山紅斑熱

シベリアマダニチフス

ボタン熱

クイーンズランドマダニチフス

リケッチア痘

ヘルベチカ感染症

その他

Rickettsia japonica

Rickettsia richettsii

Rickettsia sibirica

Rickettsia conorii

Rickettsia australis

Rickettsia akari

Rickettsia helvetica

 

日本

中南米

シベリア・中欧・中央アジア

地中海沿岸・インド・アフリカ

豪州(クイーンズランド)

北米・ロシア・南ア・韓国

ヨーロッパ・タイ北部・北日本

発疹チフス群

(typhus group)

発疹チフス

発疹熱

Rickttsia prowazekii

Rickttsia typhi

世界各地

つつが虫病群

(scrub typhus group)

つつが虫病

Orientia tsutsugamushi

日本・極東〜東南アジア・豪州

(千代孝夫編:特集―知っておきたい、見落としやすい、危険な感染症,救急医学,2012;36(5).より引用)

 

「マダニの曝露歴」がない≠マダニ関連感染症の否定ではない
 2012年にIASRから長崎の新生児における日本紅斑熱症例が報告された[11]。この症例では、日齢24日の女児の右頭頂部にダニが刺咬しており、Rickettsia japonica による感染を起こした。もちろん、この患児に入山歴はない。この患児は産院を退院した後、生活のほとんどを室内で過ごしており、おそらく同居する祖父母が畑から自宅へ持ち込んだマダニに室内で刺咬されたものと推測された。このように入山歴がなくとも、その地域で日本紅斑熱の発生が認められているところでは、可能性を念頭に置く必要がある。

 ツツガムシやマダニ類は、野山において吸着されるという先入観が一般には大きい。しかし、山沿いなど自然が豊かなところであれば、家庭菜園、家の庭や家屋周辺、河川敷や土手、新興住宅地など人が多くいる場所に身近に生息しており、そういった野山から離れた場所で感染が起こる例は報告されている。時には、屋外から持ち込んだ土壌、花木から室内で感染することもあり得る。


Take home message
(1)特定の疾患(風疹やインフルエンザなど)の流行期には、簡単にそれと診断してしまいがちであるが、思い込みは危険である。
(2)救急外来や病棟での完全な身体診察には、全身の衣服を脱がすことが含まれる。その際、小さな傷でも単なる「カサブタ」と考えずに、リケッチア感染症などの侵入門戸となる痂皮(刺し口)ではないかと疑う必要がある。
(3)病歴聴取において、山野での活動歴、野山の入山歴がなくとも、マダニ関連の感染症(リケッチアやSFTSなど)に感染することはあり、住家周辺の環境にまで注意を払う。ダニ媒介性の感染症は「常在感染症」という認識が必要である。

 

【References】

1)IASR:つつが虫病・日本紅斑熱2006〜2009,2010;31(5):120-2.
2)高田伸弘:最近のリケッチア症,検査と技術,2011;39(4):262-8.
3)馬原文彦,堤寛:ツツガムシ病・日本紅斑熱の臨床と病理,病理と臨床,2003;21:186-92.
4)Rickettsia rickettsii and Other Spotted Fever Group Rickettsiae(Rocky Mountain Spotted Fever and Other Spotted Fevers). Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases,7th ed,2009.
5)堀内信之・他:病原媒介性マダニ類の刺咬症とその感染症の臨床疫学的調査研究・第1報,日農医誌,2004;53(1):23-37.
6)千代孝夫編:特集―知っておきたい、見落としやすい、危険な感染症,救急医学,2012;36(5).
7)IASR:急性感染性電撃性紫斑病を合併した日本紅斑熱の1例,2010;31(5):135-6.
8)佐伯英治:マダニの生物学,動薬研究,1998;57:13-21.
9)IASR:<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第一報),2013.
10)吉田眞一:リケッチアの分類の変遷と新しい分類,感染症学雑誌,2003;77(6):415-7.
11)IASR:新生児の日本紅斑熱症例―長崎県,2012;33(11):304-5.

(r了)


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