No. 62008. 12. 08
成人 > レビュー

糖尿病患者がかかりやすい感染症
(2/3)

洛和会音羽病院 感染症科

黒上 朝子

(※今号のミニレビューは、3回連載で配信しています。→1回目

1.軟部組織感染症

 糖尿病がリスクファクターとなる軟部組織感染症には蜂窩織炎、膿痂疹などがあります。糖尿病では白癬と爪真菌症の頻度が増加するため、それらによる皮膚の切れ目が侵入門戸を与えるかたちとなり、細菌がsuperinfectionすることが原因の一つです。これらのなかで最も重症度の高い感染症は壊死性筋膜炎でしょう。別名”人食いバクテリア”と呼ばれるA群溶連菌などといった、単一の菌が原因となるタイプ(Ⅱ型)と、混合感染によるタイプ(Ⅰ型)がありますが、特に糖尿病においてはⅠ型が全体の90%を占め、進行が早く、さらに死亡率が高くなります。Ⅰ型の中で特に会陰部や手術創に発症するものは、“フルニエ壊疽”という名前で呼ばれています。

 治療は、迅速に広域抗菌薬を開始しますが、特にⅡ型に対しては蛋白合成阻害作用のあるクリンダマイシンも同時に投与し、細菌毒素による病態の進展を抑制します。これとともにdebridementや試験切開といった外科的処置を行うことが非常に重要です。

2.Diabetic foot(糖尿病性足病変)

 Diabetic foot(糖尿病性足病変)は、爪囲炎、蜂窩織炎、筋炎、膿瘍、腱炎、壊死性筋膜炎、関節炎、足潰瘍までを含む非常に幅の広い感染症を含む概念です(1、6)。糖尿病による感覚、運動、自律神経の障害は足の変形や感覚の低下を生じさせ、これに過剰な圧が加わることや小さな傷から潰瘍が生じ、そこへ感染することで進展していきます。

 足病変に感染があるのかないのかの見極めは困難ですが、重要です。
膿の排出か局所の炎症徴候(発赤、熱感、腫脹または硬結、疼痛のうち
2個以上)を認める場合に感染があると判断してよいとされています。

 ただし多くの患者では、ある程度進行するまでは発熱や全身症状を認めないことが多く、発見された時には骨髄炎に至っていることが少なくありません。感染徴候のある潰瘍で骨が露出している場合は、その部位の骨髄炎があると考えてよいでしょう。培養提出時の注意点は、感染創は採取前に洗浄し、開放創であればdebridementを行った底部から採取すること。またdebridementを行っていない創からのスワブは絶対に避けてください。排膿がある場合は(穿刺)吸引しましょう。培養は好気、嫌気ともに提出し、骨髄炎が疑われる場合は骨生検を行い、培養を提出します。画像診断には、レントゲンによる検出は慢性の経過でない場合は困難ですが、初期感染を検出するためには造影MRIが正確な手段です。

 起炎菌としては、好気性グラム陽性球菌、特にブドウ球菌とβ溶連菌(A、B、C、G群)が多いですが、慢性感染になると複数菌が原因となることが多くなり、特に腸内細菌科のグラム陰性桿菌が関与してくると考えるべきです。虚血もしくは壊死に陥った病変であれば、嫌気性菌が感染していることがあります。

 初期治療としては、上記の菌を想定しエンピリックに治療を行い、経過が良好な反応であれば培養結果をみてde-escalationを行います。増悪する場合には耐性菌やMRSAの関与を考慮してカバーを広げる必要があります。では、どのような時に外科治療を考慮するべきなのでしょうか? 基本的には生命もしくは四肢を失う可能性がある感染症-壊死性筋膜炎、ガス壊疽、広範囲の軟部組織の喪失、コンパートメント症候群、クリティカルな虚血が四肢にある場合-です。これより重症度が低い状況であれば、まずは内科的治療の反応をみることが適切であると考えられています。

 治療期間は、基本的には軽症であれば1-2週間、中等~重症であれば2-4週間、急性骨髄炎を合併していれば4-6週間、下腿切断術を施行していないか腐骨が残存していれば3か月以上の抗菌薬投与が必要となることがあります。

3.気腫性胆嚢炎、気腫性膀胱炎・腎盂炎

 気腫性胆嚢炎の約35%は高齢の糖尿病患者にみられます(1、2)。ガス産生を伴う胆嚢の化膿性炎症で、症状は急性胆嚢炎に似て右季肋部痛、嘔吐、黄疸、発熱などがみられますが、穿孔率が高く、致死率は約15%と高くなります。腹膜炎、敗血症性ショックを伴うこともあります。大腸菌などのグラム陰性桿菌と嫌気性菌(Bacteroides fragilisClostridium perfringens)の混合感染が多いといわれています。治療は、診断後は速やかに胆嚢摘出術を行うこと、腸内細菌群と嫌気性菌をカバーした広域抗菌薬を選択することが肝要です。

 一方、糖尿病に合併する尿路系の感染症には、膀胱への定着から臨床的な膀胱炎、気腫性膀胱炎、腎盂腎炎、腎実質内もしくは腎周囲膿瘍、気腫性腎盂腎炎という下部から上部への一連の感染症が含まれます。気腫性腎盂腎炎は腎皮質や周囲にガスの産生を伴う病態で、90%以上は糖尿病に合併し、急性の発熱、右側腹部痛、吐気、嘔吐で発症します。通常の腎盂腎炎であれば3日以内に解熱することが多いため、4日以上発熱が続く場合には疑い、画像検索を行うのがよいでしょう。主な原因菌はグラム陰性桿菌(50%以上は大腸菌)であるため、通常の腎盂腎炎と同様の抗菌薬治療を行いますが、抗菌薬で反応が乏しいかガスが拡大するような場合は経皮ドレナージや腎臓摘出が必要となります。

 次からは稀ですが重症度が高く重要な疾患の解説に移りたいと思います。


<References>

1. Infections in diabetes mellitus and hyperglycemia, Infect Dis Clin N Am 2007, 21: 617
2. Infections in patients with diabetes mellitus, N Engl J Med 1999;341: 1906
3. Increased risk of common infections in patients with type1 and type 2 diabetes mellitus, Clin Infect Dis 2005; 41: 281
4. Quantifying the risk of infectious diseases for people with diabetes,Diabetes Care 2003; 26: 510
5. Diabetes and the risk of infection-related mortality in the U.S,Diabetes Care 2001; 24: 1044
6. Diagnosis and treatment of diabetic foot infections, Clin Infect Dis 2004;39: 885
7. Fungal sinusitis, N Engl J Med 1997; 337: 254
8. Posaconazole for salvage therapy for zygomycetes, Antimicrob Agents Chemother 2006, 50; 126

(次回に続きます)

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