No. 52008. 11. 11
成人 > ケーススタディ

不明熱の原因検索のために来院した56歳男性 (2/3)

亀田総合病院

山本 舜悟

(※今号のケーススタディは、3回連載で配信しています。 →前回

考えたことと鑑別診断

 もともと慢性痒疹があるものの、それ以外は特に既往はなく、元気な56歳男性である。厳密な不明熱の定義は満たさないものの、不明熱のカテゴリーで考えていく。
感染症、膠原病、悪性腫瘍、その他を大きなくくりとしてとらえる。
第1印象としては、食欲はないというが、全身状態はそれほど悪くないように見える。バイタルは安定している。少なくとも熱で消耗しているようには見えない。 ここで、闇雲に検査を行うより、経過を紙に書いてまとめてから考えることにした()。

図 経過表

 すると、それまで割と健康だった人が1か月ほど前に腰を蹴られたことから今回の一連のイベントが始まっていることに気づいた。薬剤や処置など医原性の問題はないかどうかということが検討事項に挙がる。
 再度確認したところ、針治療や外科的手術などは受けてはいなかった。すると薬剤熱か。比較的徐脈があり、熱の割には全身状態がよいことも矛盾はしない。実際、10日前にかかった皮膚科でも薬疹を疑われ、ロキソプロフェン、ミノサイクリン、メコバラミンを中止されている。通常、薬剤熱ならば、原因薬物を中止して72時間以内に解熱するとされている。今回は解熱するどころか逆に発熱するようになっている。
 薬剤熱の可能性は考えつつ、他に原因がないかを検討していく。
 紅斑が薬疹でなかったとすると、発熱と紅斑をきたすものの鑑別診断になる。腰痛は蹴られてから起こっているので、おそらく発熱とは無関係だろうが、万が一でも関係があった場合のことも考慮しておく。

発熱と紅斑をきたすものとして、

ウィルス性

 EBV、CMV、HIVは考える。昨今の麻疹の流行から考えると、麻疹も鑑別診断には挙げておくが、56歳であれば、通常幼少期にかかってしまっているだろう。肝機能異常があれば、HAV、HBV、HCVも考えてよいだろう。ウィルス性肝炎については、Dr Tierneyのpearlとしては、スパイク熱をきたすのはHAVだけだそうだが。

細菌性

感染性心内膜炎

感染症医として最も見逃したくないものである。診察上心雑音はないし、点状出血もない。皮疹は心内膜炎でみるものに典型的なものではない。ちょっと違うと思うが、見逃すと感染症医としてかなり格好悪いので、血液培養はチェックしておこう

梅毒

発熱、皮疹から当然考える。ただ、ミノサイクリンも効いてしまうので、なんとなく経過は合わない気がする。

腹腔内、骨盤内膿瘍

腹痛のエピソードはまったくなかった。相対的には可能性が低いとは思うが、肝膿瘍は症状が非特異的だし、身体所見も出にくい。画像検査は考慮してもよいだろう。ただ、皮疹は合わない。

化膿性椎体炎

腰痛は蹴られたためだろうが、これが目くらましになって、実は!ということがあるかもしれない。しかし、腰痛は椎体に限局しているわけではなさそうだし、皮疹も合わない。こちらも可能性は低い。他のものが除外されてから検討でも遅くはないだろう。

抗酸菌

 結核はどんなときでも考える。曝露歴ははっきりしたものはないが、バスの運転手という仕事柄、知らないうちに曝露してしまっている可能性はある。呼吸器症状はないし、肺結核はおそらく違うと思うが。念のために胸部レントゲンは撮影しておこう。肺外結核については、、、少し置いておこう。

真菌性

カンジダ、アスペルギルスが病気を起こすような免疫状態ではない。クリプトコッカスも曝露歴は明らかでない。皮膚病変を伴うことはあるが、紅斑とは違ったように思う。海外渡航歴はなく、ヒストプラズマ症などいわゆる ” endemic fungi “は考えなくてよいだろう。

その他

海外渡航歴はなく、マラリアはなし。
また、紅斑があり、リケッチア感染症は考える。特に房総半島はツツガムシ病、日本紅斑熱のどちらもある地域である。時期的には日本紅斑熱になる。刺し口はよく探してもみられなかったが、日本紅斑熱は刺し口がはっきりしないこともある。ただし、ミノサイクリンを2週間ほど飲んだ後に発熱してきているのは経過が合わない。

次に非感染症で考えると、

膠原病

発熱と紅斑のみの症状で、他に関節痛などは伴っていない。血管炎については否定できないが、かといって疑う所見も乏しい。今はあまり考えなくてよいだろう。

悪性腫瘍

特に検診は受けていないという。いろいろな可能性はあるが、やはり腰を蹴られたからのイベントということを考えると、いきなり悪性腫瘍を広範に調べていくというのは得るものが少なそうだ。これも後回しでよいだろう。ただ、紅斑を伴っているということもあり、悪性リンパ腫はあったら嫌だなという感じはある。

その他

甲状腺機能異常については、TSHだけで簡単にスクリーニングができる。特に、高齢者の甲状腺機能異常は症状が非典型的になると言われ、検査をしてみないとわからないことも多い。可能性は低いとは思うが一応チェックしておく。
薬剤熱はやはり残る。もう一度検討すると現在内服しているのは、エピナスチン、レバミピド、アセトアミノフェンの3剤だ。このうちアセトアミノフェンは発熱してから内服しているので、原因にはならない。よく見ると残る2剤は発熱する2週間ほど前から内服している。薬剤熱の典型例は薬剤を開始してから1~2週間で発熱してくる。そういう意味ではこれらはバッチリ合致する。

ということで、初期検査としては、

  • 血算、血液スメア
  • 生化学(肝酵素、腎機能、ビリルビン、電解質など)
  • EBV、CMVについて抗体検査
  • TSH
  • 尿検査、沈渣
  • 血液培養2セット(感染性心内膜炎を疑えば3セットだが、正直あまり疑っていなかったので)
  • 胸部レントゲン

をオーダーした。

 HIVも検査したかったが、奥様ががっちり傍にいて、なかなか話を切り出せなかった(実は性交渉歴は再来の時に聞いたもの)。まあ次回に確認でもよいか。  同時にエピナスチン、レバミピドを中止してもらうようにした。エピナスチン(アレジオン)といえば抗アレルギー薬なので、これが原因とすれば皮肉なものだが。

検査所見:
血球 3700(Neut 50.0%, Lymph 29.3%, Eo 8.2%, Mono 11.6%, Baso 8.2%)、Hb 15.0、Hct 44.6、血小板 24.1万、AST 27, ALT 47, LD 211, ALP 256, γ-GT 35, T-Bil 0.5, BUN 18, Cre 1.0, Na 140, K 4.3, Cl 104, 血糖 97, CRP 1.28
TSH 1.2 μIU/ml(正常範囲内)

尿検査:異常なし

胸部レントゲン:異常陰影なし

 1時間半ほどして出てきた検査結果は上記のとおりだった。EBV、CMVの結果は1週間ほどかかる。

 予想どおり血液検査の結果はたいしたことがない。白血球が少なめなのはウィルス性を思わせる。好酸球の比率は高めだが、白血球の絶対数が少なくなっているためだろう。

ここで、今日入院してもらうかどうかを考えた。
バイタルサインに異常はなく、食事や水分もとれている。日常生活に大きな支障をきたしているわけでもない。鑑別診断に挙がった疾患には急変するようなものは含まれておらず、外来で十分みられるだろうと考えた。入院を希望されれば、入院しても悪くないという程度だろう。

相談の結果、入院はせずに外来で経過をみることになった。ただ、奥様の心配が強く、「本当に大丈夫でしょうか?」と言われ、ちょっと自信がなくなり、胸腹部の造影CTをこの日に撮ってしまった。有意なリンパ節腫脹はなく、もちろん腹腔内膿瘍もなかった。

万が一でも血液培養が陽性の場合には連絡して、すぐに戻ってきてもらうようにするということで、帰宅してもらい、4日後に再来予約をとった。エピナスチン(アレジオン)、レバミピド(ムコスタ)は中止してもらい、発熱時にアセトアミノフェンだけ継続してもらった。

(本症例は実際にあった症例を元に、個人情報などに配慮しつつ、再構成したものです。)
(次回に続きます)

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