KANSEN Journal No.68 (2019.2.27 )
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「生物学的製剤およびJAK阻害薬と感染症」
(関節リウマチ編)


諏訪中央病院総合診療科
村中清春

 


 

2003年、関節リウマチに対してTNF阻害薬の一つであるインフリキシマブが国内認可され、現在使用されている生物学的製剤は8種類になる。さらに2種類のヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)も国内で使用可能である(表1)。認可されてから間もない薬剤もあるが、おおむね感染症のプロファイルは把握されてきている。以下に臨床医が最低限心得ておくべき「生物学的製剤およびJAK阻害薬に関連した感染症」について述べる。


表1 国内で関節リウマチに適応のある生物学的製剤とJAK阻害薬

 

生物学的製剤およびJAK阻害薬使用前にスクリーニングすべき感染症

1.結 核

・インフリキシマブが導入された当初、結核の発症が大きな問題となった。
・感染症副作用が認識され、使用前の対策がなされるようになってからは、結核件数は劇的に減少している[1, 2]。
・以下のようにスクリーニング方法とその対応法が比較的明確な分、対策なしの生物学的製剤使用による結核発症はあってはならない。

 1)具体的なスクリーニング方法

・結核の病歴と家族歴聴取
・抗原特異的インターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assay:IGRA)and/or ツベルクリン反応
・胸部X線検査

 2)潜在性結核

・潜在性結核と診断したら治療する(詳細については文献3を参照)。
・処方具体例:イソニアジド5mg/kg/日(最大300mg)、9か月間
・活動性の結核を必ず否定する。

2.HBV

・特に、血液悪性腫瘍のリツキシマブ投与によるHBV再活性化が指摘されている。頻度は低いが、再活性化した場合は致死的なためスクリーニングする。
・具体的なスクリーニング方法は、日本肝臓病学会「B型肝炎治療ガイドライン(第3版)」を参照のこと(図1)。
・抗体陽性者のモニタリング方法についても上記ガイドラインを参照のこと。
・抗ウイルス薬を使用する場合は肝臓専門医と連携することが望ましい。



図 1 免疫抑制剤使用中の HBV スクリーニング
拡大図はここをクリック
(日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会・編:B 型肝炎治療ガイドライン第3版より引用)

 

3.HCV

・HCVもHBVと共にスクリーニングすることが推奨されている[4, 5]。しかし、免疫抑制剤使用による再活性化はHBVのようには認知されていない。
・HCVスクリーニング:HCV抗体(HCV抗体陽性の場合はHCV RNA定量)

4.HIV

・HIVのスクリーニングについてはいくつかのガイドラインで触れられているが、筆者の意見としては全例で行う必要はないと考えている。
・ただし、HIV感染者で抗リウマチ薬を使用するときは、HIV治療を先行もしくは並行させるべきである[4, 5]。


活動性感染症発症時の生物学的製剤およびJAK阻害薬

・活動性感染症があるときに、生物学的製剤およびJAK阻害薬の初回使用を開始しない。
・生物学的製剤使用中の感染症では、原則的に生物学的製剤およびJAK阻害薬を中断する(抗酸菌感染症など一部の感染症においては生物学的製剤中止により病態の悪化を招くことがある)。


生物学的製剤およびJAK阻害薬使用中の感染症診断の注意点

1.全身症状、CRP/ESRがマスクされる可能性がある

・免疫抑制剤全般に言われていることだが、抗リウマチ薬も時に感染症の前駆症状をマスクすることがある。
・特に生物学的製剤の中では、トシリズマブなどのIL-6阻害薬はCRP産生の本流を阻害するため、重症感染症があってもCRP/ESRが陰性のことがある[6]。

2.細胞性免疫障害を意識する

・免疫抑制は古典的に(1)皮膚バリア障害、(2)液性免疫障害、(3)細胞性免疫障害、(4)好中球減少の4種類に分類される。
・特殊な病原微生物の早期診断のために、実臨床では細胞免疫障害として認識しておくべきである。
・B cell depletionが主体のリツキシマブにおいても、液性免疫障害が主体となっていない[7]。
・生物学的製剤の薬理機構はいまだにブラックボックスな部分がある。


薬剤各論

・この数年でいくつかのシステマティック・レビューがなされ、米国リウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ学会(EULAR)および日本リウマチ学会のガイドラインでは、特定の生物学的製剤の優位性には言及していない[4, 8]。
・感染症リスクの高い患者に対してはエタネルセプトやアバタセプトを選択する専門家もいる。英国リウマチ学会(BSR)の生物学的製剤使用ガイドラインでも触れられている[5]。
・JAK阻害薬は他の抗リウマチ薬と比べて帯状疱疹リスクが高い[9, 10]。
・製剤ごとの感染症リスクの詳細は文献11-14を参照のこと(総論は文献11、TNF阻害薬は文献12、IL-6阻害薬は文献13、JAK阻害薬は文献14)。


微生物各論

1.結核菌

・TNF阻害薬は肉芽腫形成に主要な役割を果たすTNFαを阻害する薬剤であり、理論的には結核のリスクを上げる。
・実際、TNF阻害薬使用当初は結核の頻度が高かった[1, 2] 。
・中でも肺外結核が多く、典型像を取らないため、より結核を診断しにくくする薬剤ととらえるべきである。
・TNF阻害薬以外の生物学的製剤とJAK阻害薬に関しても、現段階ではTNF阻害薬と同様の結核に対する配慮を行うべきである[4, 5]。

2.非結核性抗酸菌

・市販後調査で徐々に結核の頻度が低下しているが、逆に非結核性抗酸菌の頻度が上昇傾向にある(結核の2倍と頻度が高い) [15]。
・結核における「潜在性」の概念がなく、生物学的製剤使用時の具体的な対策が困難な病原微生物と言える。
・生物学的製剤も他の免疫抑制剤と同様に肺外病変(特に皮膚軟部組織病変)を意識すべき薬剤である。
・肺病変ではMycobacterium avium complex(MAC)が、肺外病変ではMycobacterium abscessusMycobacterium chelonaeなどの迅速発育菌が多い。

3.HBV

・急性B型肝炎の血清病様反応には関節炎症状や皮疹があり、リウマチ性疾患を想起させる。
・結節性多発動脈炎とHBVの関連は古くから示唆されている。
・血清検査結果や免疫抑制剤の種類によってHBV再活性化のリスクは異なる(表2)[16]。


表 2 HBV 再活性化リスク(文献 16 より引用・改変)
拡大図はここをクリック
*1 プレドニゾン20mg(または同等量)を超えるコルチコステロイドの投与は、HBV再活性化のリスクが高いと報告されている。
*2 HBVの再活性化に関連した多剤併用化学療法の例としては、扁平上皮癌に対するシスプラチンベースの化学療法、リンパ腫に対するCHOP療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾン)が含まれる。
*3 報告によりHBVの再活性化率は異なるが、おおよそ、「超高リスク」:20%超、「高リスク」:11%〜20%、「中等度リスク」:1〜10%、「低リスク」:1%未満となる。

 

4.Pneumocystis jirovecii

・生物学的製剤使用のみでニューモシスチス肺炎をroutineに薬物予防する必要はない。
・日本では欧米に比べて生物学的製剤使用中のニューモシスチス肺炎発症が多い。
・薬物予防をするときの指標の一例[17]:(1)65歳以上、(2)プレドニゾロン換算で6mg/日以上のステロイド使用、(3)既存の肺病変、これらのリスクが積み重なるにつれてニューモシスチス肺炎の発症リスクが上がる(図2)[17]。


図 2 インフリキシマブ使用中のニューモシスチス肺炎の累積発生率
(文献 17 より引用)

 

生物学的製剤およびJAK阻害薬と予防接種

・リウマチ性疾患患者でも予防接種は推奨される[4, 5]。
・免疫抑制剤を使用している場合、生ワクチンは原則禁忌である。
・特にインフルエンザウイルスワクチンと肺炎球菌ワクチンを優先する。
・生物学的製剤を使用する場合は、原則として使用前の予防接種が望ましい。


生物学的製剤およびJAK阻害薬と手術[18]

1.リスクに関する知見

・周術期の抗リウマチ薬管理については十分な医学的根拠がない。
・生物学的製剤は術後感染リスクを上げるとする見解とリスク因子にはならないとする見解があり、コンセンサスは得られていない。
・しかし、生物学的製剤による感染症副作用は他の抗リウマチ薬使用者よりも多いことが知られており、リスクはあるものとして扱ったほうがよいだろう。

2.抗リウマチ薬使用中の関節手術周術期の薬剤管理

・経口DMARDsは続ける。
・生物学的製剤はもとの投与間隔に応じて休薬期間を設ける。
・トファシチニブは7日間休薬する。
・例えば、関節リウマチでメトトレキサート週1回、アダリムマブ2週に1回皮下注射、プレドニゾロン10mg/日の投与があった場合、アダリムマブ最終投与の3週目に手術を計画し、メトトレキサート、プレドニゾロンは継続する。術後経過に問題がないことを確認し、手術2週間後にアダリムマブを再開する。
・ゴリムマブ4週に1回皮下注射で使用中であれば、最終投与5週目に手術、手術4週間後に再開する。
・インフリキシマブ8週に1回静脈注射で使用中であれば、最終投与9週目に手術、手術8週間後に再開する。

 

【References】

1)Falagas ME, Manta KG, Betsi GI, et al: Infection-related morbidity and mortality in patients with connective tissue diseases: a systematic review. Clin Rheumatol. 2007 May; 26(5): 663-70.
2)Carmona L, Gomez-Reino JJ, Rodriguez-Valverde V, et al; BIOBADASER Group: Effectiveness of recommendations to prevent reactivation of latent tuberculosis infection in patients treated with tumor necrosis factor antagonists. Arthritis Rheum. 2005 Jun; 52(6): 1766-72.
3)結核 第88巻 第5号 2013年5月.
4)Singh JA, Saag KG, Bridges SL Jr, et al: 2015 American College of Rheumatology Guideline for the Treatment of Rheumatoid Arthritis. Arthritis Rheumatol. 2016 Jan; 68(1): 1-26.
5)Holroyd CR, Seth R, Bukhari M, et al: The British Society for Rheumatology biologic DMARD safety guidelines in inflammatory arthritis. Rheumatology (Oxford). 2019 Feb 1; 58(2): 372.
6)Bari SF, Khan A, Lawson T: C reactive protein may not be reliable as a marker of severe bacterial infection in patients receiving tocilizumab. BMJ Case Rep. 2013 Oct 31; 2013.
7)Cooper N, Arnold DM: The effect of rituximab on humoral and cell mediated immunity and infection in the treatment of autoimmune diseases. Br J Haematol. 2010 Apr; 149(1): 3-13.
8)Singh JA, Cameron C, Noorbaloochi S, et al: Risk of serious infection in biological treatment of patients with rheumatoid arthritis: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2015 Jul 18; 386(9990): 258-65.
9)Curtis JR, Xie F, Yun H, et al: Real-world comparative risks of herpes virus infections in tofacitinib and biologic-treated patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis. 2016 Oct; 75(10): 1843-7.
10)Winthrop KL, Curtis JR, Lindsey S, et al: Herpes Zoster and Tofacitinib: Clinical Outcomes and the Risk of Concomitant Therapy. Arthritis Rheumatol. 2017 Oct; 69(10): 1960-8.
11)Fernandez-Ruiz M, Meije Y, Manuel O, et al: ESCMID Study Group for Infections in Compromised Hosts (ESGICH) Consensus Document on the safety of targeted and biological therapies: an infectious diseases perspective (Introduction). Clin Microbiol Infect. 2018 Jun; 24 Suppl 2: S2-9.
12)Baddley JW, Cantini F, Goletti D, et al: ESCMID Study Group for Infections in Compromised Hosts (ESGICH) Consensus Document on the safety of targeted and biological therapies: an infectious diseases perspective (Soluble immune effector molecules [I]: anti-tumor necrosis factor-α agents). Clin Microbiol Infect. 2018 Jun; 24 Suppl 2: S10-20.
13)Winthrop KL, Mariette X, Silva JT, et al: ESCMID Study Group for Infections in Compromised Hosts (ESGICH) Consensus Document on the safety of targeted and biological therapies: an infectious diseases perspective (Soluble immune effector molecules [II]: agents targeting interleukins, immunoglobulins and complement factors). Clin Microbiol Infect. 2018 Jun; 24 Suppl 2: S21-40.
14)Reinwald M, Silva JT, Mueller NJ, et al: ESCMID Study Group for Infections in Compromised Hosts (ESGICH) Consensus Document on the safety of targeted and biological therapies: an infectious diseases perspective (Intracellular signaling pathways: tyrosine kinase and mTOR inhibitors). Clin Microbiol Infect. 2018 Jun; 24 Suppl 2: S53-70.
15)Winthrop KL, Iseman M: Bedfellows: mycobacteria and rheumatoid arthritis in the era of biologic therapy. Nat Rev Rheumatol. 2013 Sep; 9(9): 524-31.
16)Di Bisceglie AM, Lok AS, Martin P, et al: Recent US Food and Drug Administration warnings on hepatitis B reactivation with immune-suppressing and anticancer drugs: just the tip of the iceberg? Hepatology. 2015 Feb; 61(2): 703-11.
17)Harigai M, Koike R, Miyasaka N; Pneumocystis Pneumonia under Anti-Tumor Necrosis Factor Therapy (PAT) Study Group: Pneumocystis pneumonia associated with infliximab in Japan. N Engl J Med. 2007 Nov 1; 357(18): 1874-6.
18)Goodman SM, Springer B, Guyatt G, et al: 2017 American College of Rheumatology/American Association of Hip and Knee Surgeons Guideline for the Perioperative Management of Antirheumatic Medication in Patients With Rheumatic Diseases Undergoing Elective Total Hip or Total Knee Arthroplasty. Arthritis Care Res (Hoboken). 2017 Aug; 69(8): 1111-24.



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