KANSEN Journal No.65(2018.10.6)
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東京オリンピックと感染症(第1回)[全3回]

マスギャザリングと感染症


国立国際医療研究センター国際感染症センター
忽那賢志

 


 

 

マスギャザリングと感染症のリスク

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催される。実に56年ぶりの東京での開催であり、盛り上がるのも必定なのであるが、われわれ感染症クラスター的には盛り上がってばかりもいられない。東京都によるとオリンピック期間中の1日の来場者数は最大92万人にも上るとのことである。実にぱねえ数字である。 

オリパラとは、言い換えればマスギャザリング(mass gathering)なのである。マスギャザリングとは、日本集団災害医学会では「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と定義されている。まさにオリパラのためにある言葉である。

ちなみに「マスギャザリング」という言葉を聞くと、なぜかルー大柴が「トゥギャザーしようぜ!」と言っている光景が脳裏に蘇るのは私だけではないだろう。いや、私だけかもしれないが、あながちルー大柴の言っていることも間違ってはいないのである。マスギャザリングとは、ある特定の場所に多くの人がトゥギャザーしちゃう事象を指すのである。なぜ、トゥギャザーしちゃうとまずいのか……、それは感染症が人から人へと伝播していき、アウトブレイクへとつながることがあるからである。


マスギャザリングにおける髄膜炎菌感染症のアウトブレイク

例えば、世界スカウトジャンボリーというイベントをご存じだろうか。公式ホームページによると「世界スカウトジャンボリーは、4年に1度開かれる世界スカウト機構主催のスカウトの大会です。世界スカウト機構は、世界で3000万人が参画する世界最大の青少年運動組織です。2015年に山口県・きらら浜で開催された第23回世界スカウトジャンボリーには世界155の国と地域から約3万4000人の青少年が集まり、約2週間にわたって、キャンプをしながら『世界の仲間』と体験を共有しました」という説明があり、なんだか甘酸っぱいイベントであったことがうかがわれる。オレにも青春時代があったんだよなあ……。

それはともかく、155の国と地域から約3万4000人が、人口約20万の山口市に集まった……、これは元山口県民的には現地のパニックの様子が想像でき、トゥギャザーしすぎだろうって話なのである。さすがのルー大柴もストップをかける規模なのである。そして、そんなにたくさんの人たちがどこに泊まるんだって思われる方もいらっしゃると思うが、どうやらキャンプをするらしい。若者たちが集まってキャンプか……、なんだかいかがわしいことがいっぱいありそうだなーと遠い目をして高校時代に小倉のそごう(今はもうない)でデートをした女の子のことを思い出す私であるが、そんなことばかりは言ってられないのである。世の中、甘酸っぱいことばかりではないのである。

キャンプのような超密集した環境に人が集まると何が起こるのかというと、この2015年の世界スカウトジャンボリーでは髄膜炎菌感染症のアウトブレイクが起こってしまったのであった。髄膜炎菌感染症……超危険な感染症である。この大会に北スコットランドから参加していた3名、スウェーデンから参加していた2名が日本からの帰国途中または帰国後に髄膜炎菌感染症と診断されたのである[1]。日本の、山口市のような田舎町でも人がたくさんトゥギャザーすれば感染症が流行しうる。これがマスギャザリングの怖いところである。

髄膜炎菌感染症と言えば、ハッジ(Hajj)が有名である。これまたマスギャザリングとしては超メジャーなイベントであり、感染症クラスターとしては知っておかなければルー大柴に怒られかねない。ハッジとは、イスラーム暦12月8日から12日にかけて、150以上の国々から500万人以上のムスリム(イスラム教徒)がサウジアラビアの聖地メッカを目指して集まる巡礼のことだが、このハッジでも髄膜炎菌感染症のアウトブレイクがたびたび報告されている()[2]。どれくらい密集しているのか、実際の画像を見ていただければ分かると思うが、著作権の関係などあるので、とりあえずこのリンクからとんでもない密集具合をご覧いただきたい。なお、これまでの度重なる流行を受け、近年ではサウジアラビアに入国する際には4価の髄膜炎菌ワクチン(ACYW135)を接種し、その接種証明書を提出しなければならなくなっている。



図 ハッジにおける髄膜炎菌感染症の報告数(文献2より引用)

マスギャザリングで流行しうる感染症は髄膜炎菌感染症だけではない。これまでにマスギャザリングと関連して流行した感染症、流行が懸念される感染症を[3]にまとめた。



表 マスギャザリングで流行が懸念される感染症
   (文献3を参考に筆者作成)


次回はこれらの感染症の中から、特に注意すべき疾患であるMMRV(麻疹・風疹・おたふく・水痘)について取り上げたい。


【References】

1)Kanai M, Kamiya H, Smith-Palmer A, et al: Meningococcal disease outbreak related to the World Scout Jamboree in Japan, 2015. Western Pac Surveill Response J. 2017 May 8; 8(2): 25-30.
2)Memish ZA, Zumla A, Alhakeem RF, et al: Hajj: infectious disease surveillance and control. Lancet. 2014 Jun 14; 383(9934): 2073-82.
3)Gautret P, Steffen R: Communicable diseases as health risks at mass gatherings other than Hajj: what is the evidence? Int J Infect Dis. 2016 Jun; 47: 46-52.



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