No. 452013. 10. 17
成人 > ケーススタディ

発熱・意識障害で受診した90歳代女性(1/3)

東京女子医科大学 感染症科

藤田崇宏

(今号は3週連続で配信します。)

※本症例は、実際の症例をもとにしていますが、プライバシー保護のため病歴を一部改変しています。

現病歴

  ADLは自立し独居している92歳の女性が、救急外来を受診した。

 受診前日に親族が電話をかけたところ電話に出なかったため、心配した親族が自宅を訪れたところ、自宅階段の踊り場で倒れている女性を発見。救急車を要請し、当院の救急外来に搬送された。親族が最後に連絡を取ったのは受診の5日前で、その後から発見までの状況は不明である。親族が駆け付けたときには、呼びかけに応答し、状況に関係のない話を始め、記憶が定かでない様子であった。

 あやふやな本人の話をつなぎ合わせると、受診の3日前に寿司屋で寿司を多く食べ、その日から倦怠感と脱力感を自覚したようである。その後から受診に至るまでの経過は本人からは聞き出せなかった。親族からの情報提供を主とした既往歴・社会歴は下記の通りである。

既往歴

  • 糖尿病:食事指導のみ
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 脂質異常症
  • 一過性脳虚血発作

家族歴

  特記事項なし。

薬剤歴

  • プロサイリン®(ベラプロストナトリウム)1回40μg、1日3回内服
  • プラビックス® (クロピドグレル)1回75mg、1日1回内服

社会歴

  • 独居だが、ADLは自立している。
  • 嗜好:喫煙・飲酒はしない。
  • 無職

受診時身体所見

  • 身長154cm、体重44kg
  • 体温36.2℃、BP 166/80mmHg、HR 98/分、RR 19回/分、SpO2 98%(room air)
  • 意識レベル:JCS I-3、会話に応答はするが内容が混乱している。
  • 頭頸部:瞳孔2.5mm、左右同大、対光反射あり、口腔内は乾燥している、頭部外傷なし、明らかな項部硬直なし。
  • 胸部:両肺野に雑音を聴取しない。
  • 心血管系:心雑音なし。
  • 腹部:平坦、軟、圧痛および自発痛なし。
  • 背部:脊椎叩打痛なし、CVA叩打痛なし。
  • 四肢:浮腫なし、末梢冷感著明、麻痺なし。
  • 皮膚:皮疹なし、痂皮なし。

血 算

白血球15480/μL(Neut 88.6%、Lymph 5.5%、Eos 0.0%、Mono 5.8%、Baso 0.1%)、Hb 14.7g/dL、Hct 42.3%、血小板19.7万/μL

生化学

AST 70IU/L、ALT 53 IU/mL、LDH 516 IU/L、CPK 1545 IU/L、ALP 262 IU/L、T-Bil 0.7mg/dL、BUN 51.8mg/dL、Cre 0.61mg/dL、Na 138mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 99 mEq/L、血糖192mg/dL、CRP 6.41mg/dL

検 尿

尿蛋白3+、尿糖2+、尿沈渣:RBC 5~9/HF、WBC 1~4/HF、扁平上皮10~19/LF

胸部X線撮影

浸潤影なし。

頭部CT

特に異常なし。

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ADLの自立した92歳の女性が意識障害で受診しました。鑑別診断、追加の問診、次のマネジメントはどうしますか?

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(つづく)

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