KANSEN JOURNAL No.14(2009.11.25) 
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[ミニレビュー]

AASLD 慢性B型肝炎ガイドライン(3/3)

神戸大学都市安全研究センター 医療リスクマネジメント分野
神戸大学大学院医学系研究科 微生物感染症学講座 感染治療学分野

大路 剛


(3分割配信の2回目です →1回目 2回目

 

HBVの治療

 概略を表5にまとめました。ポイントはHBeAg 陰性の症例ではHBV DNAのcut offをより低値に設定していることでしょう。

 基本的にAASLDは、厚生労働省ガイドラインのように対象が若年である場合にはインターフェロン(IFN)を積極的に薦めるといったスタンスはとっていません。

 IFNの目的はHBeAg→HBeAbへのセロコンバージョンを狙い、HBV DNAを減らすことです。副作用の問題はありますが、他の治療選択肢としての核酸アナログを取っておけるメリットがあります。日本ではなぜかB型肝炎に対するPEG-IFNは保険未収載ですが、AASLDはコンプライアンスの点からPEG-IFNを推奨しています。また臨床成績も若干PEG製剤のほうが良いとされます。

 一方日本では、HBVに第一選択として使用可能な核酸アナログは、現実的にはLamivudineとEntecavirのみです。いずれもHIV症例ではM184V耐性を誘導することが問題です。ちなみにHIV合併症例では皮肉なことに核酸アナログの選択肢が増えます (HIV感染のみにこれらの核酸アナログは保険適応になっており、HBV感染には保険未適応なのです) 。

 核酸アナログ耐性時に推奨される治療内容を表6にまとめておきます。ちなみにTelbivudineは日本ではまだ発売されていません。


表5 B型慢性肝炎の治療方針の概略(各ガイドラインを改変)

<慢性肝炎>

 

HBV DNA cut off

ALTのcut off

AASLDガイドラインの戦略

HBeAg+

HBV DNA++

ALT正常または軽度上昇

>20000IU/mL

 

≦80IU/mL

治療適応無し

@ALTが上昇

AHBV DNA上昇と生検で肝炎なら治療。IFNαか核酸アナログ

HBeAg+

HBV DNA++

ALT上昇

>20000IU/mL

 

>80IU/mL

@3から6か月観察してHBeAgが残存

A黄疸が出るか肝不全に進行したら治療。できれば肝生検。IFNαか核酸アナログ

HBeAg−

HBV DNA++

ALT上昇

2000IU/mL以上なら対応は同じ

 

>80IU/mL

IFNαか核酸アナログ

HBeAg−

HBV DNA+

ALT上昇

>2000IU/mL

>80IU/mL

IFNαか核酸アナログ

HBeAg−

HBV DNA+

ALTは軽度上昇

>2000IU/mL

 

40IU/mL<ALT<80IU/mL

肝生検を行い肝炎所見があれば治療考慮

HBeAg−

HBV DNA軽度上昇、ALT正常

≦2000IU/mL

<40IU/mL

ALT上昇またはHBV DNA上昇なら治療


<肝硬変患者>

HBeAg陽性陰性にかかわらず
HBV DNA+
ALT上昇

検出感度以上

 

≧40IU/mL

 

HBV DNA≧2000IU/mLで核酸アナログ治療

HBV DNA<2000IU/mLでALTが上昇すれば核酸アナログ治療

HBeAg陽性陰性にかかわらずHBV DNA−

検出感度以下

<40IU/mL

経過観察または肝移植

*20000 IU/mLは大体100,000 copies/mL に相当
*AASLDでのALT正常上限は40 IU/mLとして換算

 

表6 核酸アナログ耐性株出現時の治療(AASLDガイドラインを改変)

 

AASLD

Lamivudine 耐性

Lamivudine+Adefovir

Lamivudine+Tenofovir

Tenofovir+Emtricitabin

Adefovir 耐性

Adefovir+Lamivudine

Tenofovir+Emtricitabin

Entecavir 耐性

Tenofvir 単剤

Tenofovir+Emtricitabin

Telbivudine 耐性

Telbivudine+Adefovir

Telbivudine+Tenofovir

Tenofovir+Emtricitabin

 

免疫不全患者の治療時に見られるHBV

 以前よりHBsAg 陽性症例において、ステロイドなどの免疫抑制療法によりB型肝炎の再活性化が起こることは知られていました。また近年、HBsAb 陽性症例やHBcAb のみ陽性の症例からの再活性化が起こることも報告されてきました。どのような症例に対して予防を行うかについてAASLDは以下のような内容を推奨しています。

1)感染のハイリスク地域(日本など)では、化学療法や免疫抑制療法の施行前にHBsAgとHBcAbをチェックしましょう(grade II-3)。

2)HBVキャリアでは化学療法や免疫抑制療法の開始時に予防内服を推奨

a. ベースラインがHBV DNA<2000IU/mLなら化学療法終了後6か月まで抗ウイルス療法を継続

b.HBV DNA>2000IU/mLなら免疫正常者と同様、治療のエンドポイントまで継続。

c. 予想投与期間が1年以下で、HBV DNAが感度以下ならLamivudine(grade I)やTelbivudineも投与可能(これは短期間で耐性が生じやすいからです)。

d.Tenofovir or entecavir は投与期間が延びる場合には好まれますが、日本ではTenofovirはHBVには保険適応外です。

e.IFNは骨髄抑制の観点から避けましょう (grade II-3)


急性B型肝炎

 最後に急性B型肝炎の治療です。日本では、むやみにEntecavirが投与されることがありますが、HIVの共感染があると耐性誘導の危険があるので要注意です。AASLDでは、Entecavirは劇症肝炎または重症肝炎のみとしています(後者の定義づけが難しいのですが)。 

 上記と同様、期間が短ければ Lamivudine やTelbivudineも使用可能で、そうでなければEntecavirです(grade II-3)。治療期間はHBsAgのクリアランスが確認できるまで続けるべきです。肝移植を施行した劇症肝炎の患者ではいつまで続けたらいいかは不明です(grade II-1)。ちなみに急性肝炎患者全般にIFNは禁忌です。

B型肝炎治療のツボ

 最後に、筆者が考えるB型肝炎治療のツボをまとめておきます。

・HBsAg陰性でも“活動性B型肝炎”すら除外できません
・HBeAg陰性、HBeAb陽性でも活動性がある場合があるので要注意
・HBV感染は性行為感染症です。HIVとHCVの合併は要チェック
・HBVへの核酸アナログ使用前には絶対にHIV感染をチェック

(了)


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